お気楽CINEMA&BOOK天国♪

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金はないけど暇はあるお気楽年金生活者による映画と本の紹介ブログ

🔵映画「アラサー女子の恋愛事情」/(2014アメリカ)感想*女優は一流、タイトルは三流、内容は……?*レビュー3.7点

アラサー女子の恋愛事情 [DVD]

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【アラサー女子が見つけた本当の居場所】

正統派美人のキーラ・ナントレイと典型的かわい子ちゃんのクロエ・グレース・モレッツの共演、これを見逃したらポックリ逝く時に後悔しそうと思って、迷わずゲット!

いい年こいて、とドン引きされそうですが、ハートは17歳!、色即是空の境地なんてまだまだ先の話ですw

で、中身はというと、二人とも等身大の役柄を伸び伸び演じてる感じがして、ヒロインは良し。ストーリーもまあまあ。ちょっと軽くて薄い印象を受けるのが惜しいところですが、自分の居場所を探す若い女性の話なので、同世代の女子の支持は得られそうな気がします。

【あらすじ】

定職も持たず恋人との関係も中途半端で、流されるままに怠惰な日々を過ごす28歳のメーガン。周りの友人は皆、仕事に結婚と、幸せになっていくのに、自分の居場所はなかなか見付からない。

そんな頃、恋人から突然プロポーズされたメーガンは、喜びは感じつつも何故か戸惑いを隠せない。そして、彼女は、その場から逃げ出すように、夜の街で偶然知り合った16歳の高校生・アニカの家へ転がり込む。

アニカは弁護士の父との二人暮し。一見明るく振る舞うアニカだが、母親から棄てられた苦い記憶が彼女を苦しめていた。

そんな娘を厳しくも温かい眼差しで見守る父親のクレイグ。クレイグはメーガンとアニカの関係を訝しく思いながらも、メーガンを温かく迎え入れる。

そしてメーガンは、クレイグとの出会いによって自分の人生に大きな転機が訪れたことを知る……。

【感想・レビュー】

アメリカ人ってしょっちゅうパーティーやってるイメージがありますが、この作品もやたらパーティーのシーンが多いですね。出不精で人付き合いのよくない私なんかからすると、パーティなんて罰ゲームというか、ほとんど拷問に近いイベントにしか思えません(ああ、日本人で良かった!……しかし、なんで日本にはパーティ文化が根付かないんでしょうか?一考の余地はありそうです)。

で、嬉しいのは、メーガンもパーティで浮いてるところ。内向的(内省的)なアメリカ人を見ると、なんだかちょっとホッとします(キーラはイギリス人なんですが)。もっとも、彼女の置かれている状況を考えると、確かに浮かれてる場合じゃないのかもしれませんが……。

この映画を観ていると、“アラサー女子の生きづらさ”みたいなものがよく伝わってきます。仕事のキャリアとか結婚とか出産とか、切実で悩ましい問題がいろいろあって、男には推し量れないプレッシャーがあるんだろうなと思います。

まあ、ノーテンキ男の自分としては、先の事をアレコレ悩んだからといって人生が好転する訳でもなし、“いきあたりばったりでいいんじゃね”なんて、つい思ってしまうのですが、そういうところが、決断を迫られる場面が少ない男の安易な言い草なんでしょうね。だからこそ逆に、自分の居場所を必死に探すメーガンの生真面目さや不器用さが愛おしく思えるのかもしれません(単に美人に弱いだけかも?)。

不器用と言えば、アニカも同じ。下着モデルの母親から下着をもらって、“プロムで着る下着がほしかったの”、なんて言うときの、あの表情。自分を棄てた母親なのにどうしても憎みきれない娘の複雑な胸中がチラッと垣間見えて、その健気さにうるっときてしまいます(クロエちゃん、ホントにいい女優になりました。キック・アスの頃からそっと見守ってきた甲斐があるというもんです)。

ニクイのはクレイグ。“高校生の頃、最もガソリンスタンドが似合う男と呼ばれていた”から始まるほんの10数秒の自己紹介。自分の半生をユーモアたっぷりにたった10数秒で要約してしまう、そのインテリジェンスがカッコいいですね。で、年輪を重ねた男特有の適度のくたびれ感もあって、メーガンがよろめくのも無理ないなあと思います。そんなにイケメンでもないのに、粋で渋くてダンディで、アメリカのインテリ中年、恐るべし。

この作品、俳優は一流、タイトルは三流、で、肝心の内容は、(少し薄くて物足りないので)一流半といったところでしょうか。

……それにしても、メーガンの恋人はかわいそう。何にも悪い事していないのに。なんかこの役回りだけは、切実に、かつ激しく同情します。泣くな青年、きみには未来がある……たぶん。

🔴本「麻雀放浪記1 青春篇」/阿佐田哲也(文春文庫)感想*“朝だ〜、徹夜だ〜”の阿佐田哲也が描く異色のピカレスク・ロマン*レビュー3.9点

麻雀放浪記〈1〉青春篇 (文春文庫)

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【ザ・昭和の香り】

ルールを覚えたら身の破滅……そんな自己防衛本能が働いて、麻雀は結局覚えずじまい(その分パチンコにはハマったけど……アホですね)。

この作品、配牌図まで示してあってかなり親切なんですが、残念ながら何が何やらチンプンカンプン。でも、麻雀が分からなくても十分面白い小説です。

主題は玄人(バイニン)と呼ばれる雀士たちの生き方。文字通り生き残りを賭けて勝負に挑む彼らの暗い情念と負の熱量にただただ圧倒されます。

【あらすじ】

昭和20年10月、終戦直後の上野のドヤ街で、「ドサ健」のチンチロリン(サイコロ賭博)の技に魅せられた「坊や哲」は、一気に博打の世界にのめり込み、様々な玄人(バイニン)たちと出会って麻雀の技やイカサマの腕を磨く。

そして数年後……坊や哲は、「ドサ健」「女衒の達」「出目徳」という凄腕のバイニンたちとの因縁の対決に挑む。

互いの思惑が交錯する中、運(ツキ)と勝負勘を頼みに、持てる技の全てを駆使して死闘を繰り広げる無頼の男たち。そして、いよいよ勝負の大勢が決しようかという時、思わぬアクシデントが発生する。

この死闘の果て、彼らは何を得て、何を失うのか……。

【感想・レビュー】

カジノ、競輪、競馬、パチンコといったギャンブルの鉄則は、“胴元が勝つ”ということ。

そんな当たり前のこと、誰だって分かってるんですが、負けると分かっていても止められないのがギャンブルの怖さ。身を滅ぼすかも、という恐怖心が時として快感になるんだから、依存症からなかなか抜け出せないのも分かる気がします。

で、麻雀はどうなんでしょうか。この小説では、バイニンが素人をカモるためにあえて勝ったり負けたりの勝負をする場面が登場しますが、その点から察すると、麻雀は他のギャンブルと比べて技術の作用する領域が大きいということが言えそうな気がします。それに胴元が介在しない、人間相手のゲームだし……そういった意味では、麻雀は一番勝ちが計算しやすいギャンブルなのかもしれませんね(素人考えですが)。

……ということで、本題に戻ります。作者は昭和4年の生まれ。坊や哲が見た、戦争で焼け野原となった上野の街やそこで暮らす人々の姿は、作者がリアルタイムで体験した光景をそのまま投影したものなのでしょう。生き延びるのに必死で他人のことなど構っていられなかった時代……坊や哲がドヤ街で出会ったドサ健、出目徳、女衒の達、上州虎らバイニンの面々(ニックネームがザ・昭和!)は、この時代が生み落とした鬼子のような存在に思えます。

彼らの麻雀は、遊び感覚のギャンブルではなく、生き延びていくための博打。裏切りやイカサマなんて当たり前、騙すより騙される方が悪いという価値観が支配する世界です。その凄まじさは、ドサ健に裏切られた坊や哲に対するクラブのママ・ゆきの『この世界の人間関係は、ボスと、奴隷と、敵と、この三つしか無いのよ』という一言に言い尽くされている気がします。

彼らの生き方には、善悪の彼岸にある人間の業とか本能の匂いがして、底無しの闇を覗くような恐ろしさを感じます(なんせ賭金が尽きたら家の権利証とか付き合ってる女まで賭けるんですから完全な性格破綻者、ゲスの極みです)が、一方で、“負けたら終わり”の刹那の勝負に全人生を賭けて、野垂れ死にも厭わないその苛烈さに憧れを感じるのもまた正直なところです。

“保険もセーフティネットもなし、一切は自己責任”というギリギリの生き方が、苦労知らずの身からしたら、逆にカッコよく映るのかもしれないし、どんな生き方も許容(あるいは放任)されていた自由な時代への憧れもあるのかもしれませんね。

作者によれば、登場するバイニンたちにはそれぞれモデルがいるとのこと。70数年前の焼け野原の日本に実際こんな人たちが生きていたことを想うと隔世の感があって、感慨深いものがあります。

🔵映画「gifted ギフテッド」/(2017アメリカ)感想*アメリカ版“そして父になる”*レビュー4.1点

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【スタッフの真心が感じられる秀作】

ギフテッドとは、「先天的に高度な知的能力を備えた人」のこと。

これはフツーに良い映画。

親権を扱った映画としては、良く言えばオーソドックス、悪く言えば無難な作りなんですが、飾り気がなくて素朴、あざとさがなくて誠実。

“号泣映画”とはまた違った、しみじみとした感動があって、良い映画を作りたいというスタッフの真心が感じられる、なかなかの秀作だと思います。

【あらすじ】

フロリダに住む独身のフランクは、姉の自殺を止められなかったことへの償いの気持ちから、姉の一人娘・メアリーを引き取って養育している。

天才数学者だった姉の血を引くメアリーもまた数学のギフテッドで、その才能に驚いた校長はフランクに対し、メアリーには特別な教育を受けさせるべきと主張し、転校を強く勧める。

しかし、メアリーを普通に育てるという姉との約束を守るため、フランクはこれを拒み続けていた。

やがて、校長から話を聞きつけたフランクの母(メアリーの祖母)・イブリンが二人の前に現れ、娘が果たせなかった夢を孫に託そうと、メアリーの引取りを画策する。

メアリーの親権を巡る裁判が始まり、敗色濃厚となったフランクは、イブリン側が提示した和解条件を呑んで、メアリーを里子に出すことに同意する。

しかし、裁判後、イブリンが和解条件を守っていないことに気付いたフランクは、メアリーを取り戻すため、イブリンにある条件を提示する……。

【感想・レビュー】 

数学に並外れた才能を発揮する7歳児のギフテッド・メアリーの親権を巡る対立とその結末を描いたヒューマンドラマ。

この作品、ストーリーがありきたりなだけに、俳優陣の演技と製作スタッフの熱意に支えられて成功した映画かなと思います。

祖母のイブリンを除いて、みんな善い人ばかり。それにしても、年寄りってなんであんなに意固地なんでしょうか(人のことは言えませんが……)。自分の人生を否定されたくない気持ちは分からなくもないけれど、子や孫にまで自分の考えを押し付けるなんて、ホントに迷惑な○○ババア(失礼!)です。

一方のフランクはそんな母親ともキレずに付き合える、なかなかデキた息子(ん、この陰のあるイケメンは?と思ったら、なんとキャプテン・アメリカくんでした)。何がメアリーにとって最善なのか、いくら考えても確信が持てず、悩んだり迷ったりしながら子育てに奮闘するフランクの姿にかつての自分を重ね合わせて、激しく共感しましたw

そして、メアリー。泣いても笑っても、怒っても拗ねても、もう何をしても可愛いですね。爺様はメロメロしっ放しw将来どんな別嬪さんになるのやら、今から楽しみです。

そんなフランクとメアリーを温かく見守る隣人のロバータと担任教師のボニー。この二人がホントに親切。あまりの善い人ぶりになんか泣けてきます。アメリカ人が理想とする寛容さって、きっとこんなイメージなんでしょうね。

忘れられないシーンもいくつかあって、特にフランクとメアリーとロバータが病院で他人の出産を見守るシーンは、観ているこちらまで幸せな気分になります。そうそう、みんな愛されて生まれてきたんですよね。こんな気遣いができるなんて、フランクはもう立派な父親です。

祖母のイブリンはホントに嫌な婆さんだけど、彼女の立場で考えてみると、確かに天才児を普通に育てるのが本人にとって幸せなのか、という疑問も感じます。フランクとイブリン、それぞれの主張の間を採ったようなラストは、予定調和的というか、出来すぎという気がしないでもないですが、生き生きとしたメアリーの表情を見ていると、ああ、やっぱりこれで良かったんだ、としみじみ思います。

この作品、最高とまでは言えないけれど、大好きな映画の一つです。

🔴本「聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた」/井上真偽(講談社文庫)感想*“奇蹟の実在”証明に挑む一風変わったミステリー*レビュー4.1点

聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた (講談社文庫)

聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた (講談社ノベルス)

【悪魔の証明に挑むドン・キホーテ】

いやぁ、ユニークなミステリーですねぇ。面倒臭いけど、面白い。

浮世離れした登場人物たちが繰り広げる、侃々諤々の推理合戦。奇蹟の実在を証明するために人知の及ぶあらゆる可能性を否定する、というアプローチが新鮮です。

一見キワモノ的なミステリーに見えますが、中身は、緻密な論理を縦横に駆使した、堂々の本格推理小説。頭の体操にはもってこいのミステリーかと思います。

【あらすじ】

フーリンが立ち寄った、とある里村には、〈カズミ様〉と呼ばれる聖女の伝説が残されていた。昔、望まぬ嫁入りを強いられたカズミという娘が婚礼の際男衆を皆殺しにしたという。以来、その娘は女の守り神として崇められ、長年、村外れの祠に祀られていた。

フーリンは翌日、村の有力者の俵屋家の伝統的な婚礼を見学に行く。と、その席で悲劇が起こる。同じ盃を回し飲みした両家の出席者のうち、毒死した者と何ら異常がなかった者が交互に出現する、“飛び石殺人”が発生したのだ。

犠牲者は、花婿、花婿の父、花嫁の父の男3人と盃を舐めた犬1匹。フーリンの後を追ってその場に駆け付けた少年探偵・八ツ星聯(レン)は、師と仰ぐ天才探偵・上苙(ウエオロ)丞譲りの推理力で容疑者の犯行可能性をことごとく否定していく。

やがて、死んだ犬の所有者が現れて、事態は急展開。フーリンや八ツ星は窮地に追い込まれるが……上苙は奇蹟の実在を証明して、彼らを救うことができるのか?

【感想・レビュー】

容疑者は複数。それぞれの容疑者の犯行可能性を論理的かつ完璧に否定し去ることで(人の手による)犯罪の不成立を証明し、それによってこの世に奇蹟が実在することを証明しようとする青髪の探偵・上苙。

まあ、平たく言えば“悪魔の証明”みたいなもので、どう考えても無理筋の話なんですが、それを逆手に取って本格ミステリーに仕立て上げてしまう作者の才能が凄い!

まず、“人知の及ぶあらゆる可能性を否定する”という方法論の面白さ。その発想は、まさにコロンブスの卵、目から鱗の驚きです。そして、可能性の完全否定に至る論理展開の鮮やかさ(この作家、相当の切れ者と見ました)。真っ当な推理であれ、屁理屈であれ、揚げ足取りであれ、上苙の向かうところ敵なし。『その可能性はすでに考えた』という決め台詞がカッコいいですね。

また、この作品、発想がユニークなだけでなく登場人物もかなりブッ飛んでいます。とりわけ印象的なのが、元中国裏社会の幹部にして絶世の中国人美女・フーリンと、上苙の元一番弟子にして頭脳明晰な少年探偵・八ツ星聯。これに上苙が加わったら、もう完全にアニメの世界です(上苙はブラック・ジャックふう、聯はコナン君ふう、フーリンは峰不二子ふうですねw)。

この異様に濃いキャラの面々が古色蒼然とした山里から非情の中国裏社会へと舞台を移しながら推理バトルを繰り広げる訳ですから、冷静に考えると、かなりシュールな展開なんですが、読んでいて不思議と違和感はありません。これもやはり作者の筆力の賜物と言うべきか、要するに話が単純に面白いから少々のツッコミどころなんて気にならないんでしょうね。

後々まで印象に残るタイプのミステリーとは言えないかもしれませんが、奇想天外なミステリーが読みたいとか、知的遊戯を楽しみたい、頭の体操をしたいという向きにはオススメの一作かと思います。

🔵映画「天使と悪魔」/(2009アメリカ)感想*ハラハラドキドキの疾走感と西洋的宗教観の分かりにくさが共存した映画*レビュー3.8点

天使と悪魔 (エクステンデッド・エディション) (字幕版)

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【また再びの疾走感】

ローマ・カトリック教会大阪大司教の前田万葉さんが、先日、ローマ教皇庁(バチカン市国)の枢機卿に任命されたとのこと。なんせ世界12億人の信徒を束ねる枢機卿125人の一人に選ばれた訳ですから、宗教にほとんど関心のない私としても、大変喜ばしく感じたニュースでした。

さて今回は、『オリジン』に引き続いて、ロバート・ラングドンシリーズの『天使と悪魔』。……何か順番が違うような気もしますが、ローマ・カトリックと言えばバチカン、バチカンと言えば『天使と悪魔』、まあ前田さん繫がりということで。

【あらすじ】

バチカンではローマ教皇の死去に伴い、新たな教皇を選出するためのコンクラーべが行われようとしていた。しかし教皇庁ではその裏で、教皇候補となる4人の枢機卿が何者かに拉致され、「8時から1時間おきに枢機卿を殺し、最後にバチカンを滅ぼす」という脅迫を受けていた。

教皇庁から協力を求められた宗教象徴学者ラングドン教授は直ぐにバチカンに飛び、この犯行が、かつてカトリック教会から弾圧された、科学を信奉する秘密結社イルミナティによるものと確信する。そしてスイスから呼ばれたヴィットリア・ヴェトラ博士から、研究中の“反物質”が盗まれたことを聞かされる。反物質はバチカンを一瞬で消滅させるエネルギーを持つという。

4人の枢機卿はどこに拉致され、反物質はどこに隠されているのか。手掛かりはイルミナティのメンバーだったガリレオ・ガリレイの記録にあると睨んだラングドンは、バチカンの国立書庫で記録を調べ、彼らの居場所の当たりをつける。そしてヴィットリアと共に枢機卿と反物質の奪還に向かうのだが……。

【感想・レビュー】

この映画も『オリジン』と同様、テンポがいいですね。ダン・ブラウン作品の特長は“疾走感”ですかね。

展開も二転三転、途中までイルミナティの犯行の動機が全く理解できず、“数百年前の弾圧を根に持っての報復なんて、単なるテロじゃね?”なんて思っていたのですが、黒幕の登場でようやく納得。なるほどこれなら「宗教と科学の対立(と調和)」というテーマも頷ける気がします。

そう考えてみると『天使と悪魔』というタイトルも、宗教(カトリック教会)=天使、科学(イルミナティ)=悪魔といった単純なものではなく、人間(黒幕)の内面の二面性を表したものと解釈するのが妥当なような気もします。偏狭で排他的な信仰心はときに悪魔をも生み出し、その身を滅ぼすというアイロニーなんでしょうね(西洋の宗教観はやっぱり分かりにくい)。

これも当たっているかどうか分かりませんが……「宗教と科学の調和」というテーマが最新小説『オリジン』でも取り上げられているところを見ると、たぶんそのテーマがダン・ブラウンの一丁目一番地(原点)であり、ライフワークなんでしょうね。父親は数学者、母親は宗教音楽家、そして妻は美術史研究者と聞くと、なるほどなあと思います。

で、映画の話に戻りますが、この作品、映像の美しさが印象的です。由緒あるローマの街並みや教会の壮麗な内観などを観光客気分で楽しめて、ちょっと得した気分になりました。また、コンクラーベの舞台裏も垣間見られて、少しはローマ・カトリックへの理解も深まったような気がします。

一点残念だったのは、ヒロインの存在感が薄いところ。(サスペンスとしての面白味は別として)ドラマとしての盛り上がりに欠けるのは、たぶんヒロインとラングドンとの絡みが少なかったせいだろうと思います。

🔴本「オリジン」/ダン・ブラウン(角川書店)感想*謎、謎、謎、疾走するサスペンス*レビュー4.1点

オリジン 上

オリジン 上

オリジン 下

オリジン 下

【人工知能ウィンストンの圧倒的な存在感】

スケール感のある面白本が読みたくなって、買って来ました、ダン・ブラウン!

『オリジン』は、『天使と悪魔』『ダ・ヴィンチ・コード』『ロスト・シンボル』『インフェルノ』に続くロバート・ラングドンシリーズの5作目(映画は『ダ・ヴィンチ・コード』が第1作ですが、小説は『天使と悪魔』が第1作なんですね)。

今回のヒロインは、美貌の美術館館長にして未来のスペイン王妃のアンブラ。さすが海外の人気フィクション、ヒロインのスケールも規格外ですね。そして影のヒーローは、人工知能のウィンストン。こちらも、存在感ハンパなしです。

この『オリジン』も、また映画化されるんでしょうか。このシリーズ、何となく“走って逃げる”シーンが多い印象があるので、“トム・ハンクス、まだ走れるんかな?”なんて、つい余計な心配をしてしまいますw

【あらすじ】

宗教象徴学者のラングドン教授は、元教え子の天才科学者カーシュに招かれて、スペインのグッゲンハイム美術館にいた。カーシュは「われわれはどこから来て、どこへ行くのか」という人類最大の謎の解明に成功したと公表し、そして美術館のステージから全世界に向けてその衝撃的な内容を発表するというのだ。

ネット中継によって世界中の注目が集まるなか、ついにカーシュの発表が始まった。しかし世界には、神の存在の否定に繋がるカーシュの発表を望まない勢力が蠢いていて……彼は一発の凶弾によって絶命してしまう。

ラングドンとアンブラはカーシュが解き明かした真実を公表すべく、人工知能ウィンストンの助けを借りて、彼が事前に収録していたという映像を行方を探る。ただ、その映像を見るためには47文字のパスワードが必要だった……。

アンブラの行方を追うスペイン王室、信仰の危機に瀕するカトリック教会、謎の新興宗教団体に帰依する暗殺者、ネット上を暗躍する正体不明の情報提供者……敵・味方が交錯するなか、ラングドンとアンブラは彼らの追撃を交わして無事パスワードを発見できるのか、そして二人の逃走劇の果てに明らかとなる真実とは……。

【感想・レビュー】

タイトルの「オリジン」は、『独創性(オリジナリティ)は起源(オリジン)への回帰によって成り立つ』というガウディの言葉からの引用、そして「われわれはどこから来て、どこへ行くのか」という本作のテーマは、『われわれはどこから来たのか、われわれは何者か、われわれはどこへ行くのか』と題されたゴーギャンの絵にインスピレーションを得たものと思われます。なんかもうこれだけで知的好奇心をくすぐられますね。

更に、物語の舞台はスペインのビルバオ、マドリード、バルセロナ。スペイン王宮、グッゲンハイム美術館、サグラダ・ファミリア、カサ・ミラなど、スペインの歴史と文化を感じさせる名所旧跡が続々と登場し、(日本人が漠然と抱いている)ヨーロッパへの憧れを否応なく掻き立てます。その上、ヒロインが知的な美女と来れば、もうエンタメとしては半分成功したようなもの。あぁ、映画で観てみたい。

で、肝心の中身ですが、テーマは「われわれはどこから来て(人類の起源)、どこへ行くのか(人類の運命)」。正直なところあまりの気宇壮大なテーマに、「おいおい、そんな大風呂敷広げて大丈夫?どうオトシマエつけんの?」なんて、疑りのまなこでストーリーを追っていったのですが……ふむふむ、なるほど、安定のソフトランディングですね。

……「われわれはどこから来て」の問に関するカーシュの解は確かにキリストの教えに反するものですが、はたしてこれが宗教界を揺るがすような大事件なんでしょうか。この辺りの反応が、西洋と東洋の違いというか、(宗教と科学が特に違和感なく共存している)日本人にとってはあまりピンとこないところかなと思います。

また、「どこへ行くのか」の問に関するカーシュの解については、まあ想定の範囲内の結論というか、どことなく『2001年宇宙の旅』の焼き直しのような印象を受けます。確かに人工知能は特定の知的作業領域ではヒトを凌駕する能力を備えているのでしょうが、個人的には、意識とか意志といったヒトの脳機能をデータとしてトレースするのは将来的にもほぼ不可能という気がするので、結局カーシュの懸念は杞憂に終わると思うのですが……。

まあ、いずれにせよ、宗教と科学、進化論と人工知能、人工知能と人間といった対立軸を超克して人類普遍のテーマに迫るという作者の野心的試みは、ハラハラドキドキの展開と相まって、物語としては十分成功していると思います。

しかし、人工知能のウィンストンを助っ人として起用したのは素晴らしいアイデアでしたね。この作品で最も存在感を放っているのはウィンストン。映画で言えば、間違いなく助演男優賞ものだと思います。

🔵映画「神様の思し召し」/(2015イタリア)感想*勘違いおとうさんの慌てっぷりがとてもキュートなイタリアン・コメディ*レビュー4.0点

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【笑いのツボがぴったり】

陽気な笑いとしみじみとしたペーソス、そして分かりやすいストーリー。イタリア人と日本人は笑いのツボが似てるんでしょうか。とても楽しく視聴しました。

老若男女、誰でも楽しめる映画ですが、できればこれは、“できるオトコ”を自認する鈍感なおとうさん方に(日頃の行いの振り返りを兼ねて)観てほしい映画ですね。ついついスルーしがちな大切なことに気付く機会になるかもしれません。まぁ、学ぶ気持ちがあればの話ですが……。

【あらすじ】

手術の腕はピカ一だが、傲慢で毒舌、傍若無人の振る舞いで周囲から敬遠されているエリート外科医のトンマーゾ。妻との関係は冷え切り、能天気な長女は冴えない男と結婚。そんなトンマーゾの唯一の希望は医大に通う優秀な長男だったが、あろうことか長男は家族の前で「医大を辞めて神父になる!」と宣言。

長男の突然の心変わりに驚いたトンマーゾが極秘にその理由を探ると、そこにはカリスマ的人気を誇るピエトロという神父の影が。長男はピエトロ神父に洗脳されている、と思い込んだトンマーゾは、あの手この手で神父に近づき、その正体を探ろうとするが……。

【感想・レビュー】

天才外科医とムショ帰りの神父……コメディとしてはありがちな設定ですが、それでもそのコントラストは面白い。特にトンマーゾの駄目オヤジぶりが最高です。

職場ではパワハラにセクハラ、長男には表向き物分りの良いふりをして、長女には上から目線でモノを言い、妻には全く無関心……と、何か微妙に思い当たるフシがあるような。我が身を振り返ると冷や汗が出ます。いやぁ、お恥ずかしい。

オッサンという生き物が、えてして世間とミスマッチを起こすのは、たぶん妙な自信(大抵は根拠のない自信)を持ってるからだと思います。取り柄は肩書と金だけなのに(肩書も金もないオッサンがエバってたら更に悲惨)。

でも、そんなオッサンが一旦自信を失くしたら、右往左往。トンマーゾの混乱ぶりが笑わせてくれます。

でも、トンマーゾは偉い。ピエトロ神父との出会いによって自分を変えていきます。彼の年になって自分の欠点を認め、考え方や生き方を改めるなんて、なかなかできることではありません(自分の半生を否定するようなもんですから)。人間、成長するためにはいくつになっても“素直であること”が大切なんでしょうね。

結局、幸せは心の持ちよう。守るべきは肩書でも財産でもなく、家族や友人との絆ということになるんでしょうか。トンマーゾが反省して、長女の好きなポップスに聴き入るシーンとか妻に手料理をふるまうシーンとかは(身につまされて?)ちょっとうるっときます。

苦労人のピエトロの人間性も魅力ですが、何と言ってもトンマーゾのキュートさが光る一作。

ラストは賛否が分かれそうですが、この結末もアリですね。まさに「神様の思し召し」。しみじみとした余韻があって良いと思います。