お気楽CINEMA&BOOK天国♪

お気楽CINEMA&BOOK天国♪

金はないけど暇はあるお気楽年金生活者による映画と本の紹介ブログ

🔴本「オリジン」/ダン・ブラウン(角川書店)感想*謎、謎、謎、疾走するサスペンス*レビュー4.1点

オリジン 上

オリジン 上

オリジン 下

オリジン 下

【人工知能ウィンストンの圧倒的な存在感】

スケール感のある面白本が読みたくなって、買って来ました、ダン・ブラウン!

『オリジン』は、『天使と悪魔』『ダ・ヴィンチ・コード』『ロスト・シンボル』『インフェルノ』に続くロバート・ラングドンシリーズの5作目(映画は『ダ・ヴィンチ・コード』が第1作ですが、小説は『天使と悪魔』が第1作なんですね)。

今回のヒロインは、美貌の美術館館長にして未来のスペイン王妃のアンブラ。さすが海外の人気フィクション、ヒロインのスケールも規格外ですね。そして影のヒーローは、人工知能のウィンストン。こちらも、存在感ハンパなしです。

この『オリジン』も、また映画化されるんでしょうか。このシリーズ、何となく“走って逃げる”シーンが多い印象があるので、“トム・ハンクス、まだ走れるんかな?”なんて、つい余計な心配をしてしまいますw

【あらすじ】

宗教象徴学者のラングドン教授は、元教え子の天才科学者カーシュに招かれて、スペインのグッゲンハイム美術館にいた。カーシュは「われわれはどこから来て、どこへ行くのか」という人類最大の謎の解明に成功したと公表し、そして美術館のステージから全世界に向けてその衝撃的な内容を発表するというのだ。

ネット中継によって世界中の注目が集まるなか、ついにカーシュの発表が始まった。しかし世界には、神の存在の否定に繋がるカーシュの発表を望まない勢力が蠢いていて……彼は一発の凶弾によって絶命してしまう。

ラングドンとアンブラはカーシュが解き明かした真実を公表すべく、人工知能ウィンストンの助けを借りて、彼が事前に収録していたという映像を行方を探る。ただ、その映像を見るためには47文字のパスワードが必要だった……。

アンブラの行方を追うスペイン王室、信仰の危機に瀕するカトリック教会、謎の新興宗教団体に帰依する暗殺者、ネット上を暗躍する正体不明の情報提供者……敵・味方が交錯するなか、ラングドンとアンブラは彼らの追撃を交わして無事パスワードを発見できるのか、そして二人の逃走劇の果てに明らかとなる真実とは……。

【感想・レビュー】

タイトルの「オリジン」は、『独創性(オリジナリティ)は起源(オリジン)への回帰によって成り立つ』というガウディの言葉からの引用、そして「われわれはどこから来て、どこへ行くのか」という本作のテーマは、『われわれはどこから来たのか、われわれは何者か、われわれはどこへ行くのか』と題されたゴーギャンの絵にインスピレーションを得たものと思われます。なんかもうこれだけで知的好奇心をくすぐられますね。

更に、物語の舞台はスペインのビルバオ、マドリード、バルセロナ。スペイン王宮、グッゲンハイム美術館、サグラダ・ファミリア、カサ・ミラなど、スペインの歴史と文化を感じさせる名所旧跡が続々と登場し、(日本人が漠然と抱いている)ヨーロッパへの憧れを否応なく掻き立てます。その上、ヒロインが知的な美女と来れば、もうエンタメとしては半分成功したようなもの。あぁ、映画で観てみたい。

で、肝心の中身ですが、テーマは「われわれはどこから来て(人類の起源)、どこへ行くのか(人類の運命)」。正直なところあまりの気宇壮大なテーマに、「おいおい、そんな大風呂敷広げて大丈夫?どうオトシマエつけんの?」なんて、疑りのまなこでストーリーを追っていったのですが……ふむふむ、なるほど、安定のソフトランディングですね。

……「われわれはどこから来て」の問に関するカーシュの解は確かにキリストの教えに反するものですが、はたしてこれが宗教界を揺るがすような大事件なんでしょうか。この辺りの反応が、西洋と東洋の違いというか、(宗教と科学が特に違和感なく共存している)日本人にとってはあまりピンとこないところかなと思います。

また、「どこへ行くのか」の問に関するカーシュの解については、まあ想定の範囲内の結論というか、どことなく『2001年宇宙の旅』の焼き直しのような印象を受けます。確かに人工知能は特定の知的作業領域ではヒトを凌駕する能力を備えているのでしょうが、個人的には、意識とか意志といったヒトの脳機能をデータとしてトレースするのは将来的にもほぼ不可能という気がするので、結局カーシュの懸念は杞憂に終わると思うのですが……。

まあ、いずれにせよ、宗教と科学、進化論と人工知能、人工知能と人間といった対立軸を超克して人類普遍のテーマに迫るという作者の野心的試みは、ハラハラドキドキの展開と相まって、物語としては十分成功していると思います。

しかし、人工知能のウィンストンを助っ人として起用したのは素晴らしいアイデアでしたね。この作品で最も存在感を放っているのはウィンストン。映画で言えば、間違いなく助演男優賞ものだと思います。