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🔴本「幽霊人命救助隊」/高野和明(文春文庫)感想*人生、生きてるだけで丸儲け*レビュー3.9点

幽霊人命救助隊 (文春文庫)

幽霊人命救助隊 (文春文庫)

【生きるヒントが散りばめられた一冊】

天国に行きそびれた4人の男女がこの世に戻って人命救助に奔走する姿を描いた、笑いあり涙ありのハートフル・ストーリー。

設定は奇想天外ですが、“生と死”に関する深い洞察を含んだ、なかなか読み応えのある一冊です。独自の死生観を持つ養老先生が解説を担当しているのも、何となく分かる気がします。

重いテーマを軽妙なユーモアでうまく捌いて笑いと涙のエンタメ大作に仕上げた作者の手腕はお見事。エンタメ作品ながら、生きるヒントが随所に散りばめられたマジメな一冊かと思います。

ただ、本の帯にある“ラストでボロ泣き”は、ちょっと大袈裟かも……。

【あらすじ】

東大受験に失敗して自殺した裕一が、高い断崖の頂で出会ったのは、老ヤクザ・八木と気弱な中年男・市川とアンニュイな美女・美晴。彼らはみな、自殺して何十年もその頂で無為の日々を過ごしているという。

と、そこへ神様を名乗る老人がパラシュートで降臨。神様は彼らに『頂に放置されたのは、命を粗末にした罰。天国に召されたければ、下界の自殺志願者を7週間のうちに100人救うべし』と命令し、彼らをこの世に送り込む。

神様からもらった様々なアイテムを使って、4人組の必死の救助活動が始まる。

借金、病気、人間関係のトラブルなどを苦に自殺を図ろうとする人たちの命を救ううち、4人は次第に生きることの価値に気付いていく。

そして、いよいよ100人目のミッション。最後の自殺志願者は、裕一を死に追い詰めた彼の父親だった。

裕一は、父を救い、家族を救うことができるのか。そして、4人は無事天国に上ることができるのか……。

【感想・レビュー】

なにせ100人もの命を救うミッションですから、エピソードもいろいろ。それで話が膨らんでしまうのも致し方ないのかもしれませんが、それでも600頁は長すぎる気がします。神様の要求水準がちょっと高過ぎたのでしょうね。似たようなエピソードが何度も繰り返される感じがあって、やや冗長な印象を受けるのが玉にキズかなと思います。

自殺の原因がある程度類型化されているのだから、それに沿ってもう少し救助人数とエピソードを絞り込んだ方がよりダイレクトにメッセージが伝わったのでは、と思うのですが……。

ただ、「自殺」という重たすぎるテーマを巧みに捌いて長編エンタメに仕上げた作者の手腕はたいしたものだと思います。ややもすると沈みがちになる気分を拍子抜けするようなギャグで救ってくれるところがありがたいですね。

その意味では、老ヤクザ・八木の存在感が際立っています(もっとも、彼のギャグが古過ぎて笑うに笑えない読者もいるかと思いますが)。本の中とはいえ、こういう古き良き日本人に出会うと、気持ちが和みます。まぁ、それだけ世の中が世知辛くなって、自分の気持ちもささくれ立っているってことなんでしょうね。

この作品で最も感銘を受けたのは、作中の随所に散りばめられた作者の人生観や死生観を示唆する名言の数々。

いくつか例を挙げると……

『この国には1億2千万人もの人々がいるのに、どうして孤独というものがあるのだろう』

『悲観的に見える将来は、同時に好転する可能性をも秘めている』

『人は、たった一つの人生しか歩むことができないから、別の生き方をうらやましく感じてしまうのだろうか。たった一つ、というのは貴重なはずなのに』

『人の世はきまぐれだ。冷淡かと思えば意外に温かく、頼ろうとすれば突き放される』

……深いですね。これらの名言に出会えただけでも読んで良かったと思える一冊です。

“人生、生きてるだけで丸儲け”……これは明石家さんまの座右の銘として有名になった名言ですが(「別府亀の井ホテル」の創業者・油屋熊八の言葉らしいですね)、この作品のメッセージも、詰まるところ、そういうことなんだろうなと思います。

人生は気の持ちよう次第。生かされていることに感謝する気持ちがあれば、人は案外たやすく幸せになれるのかもしれませんね。