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🔴本「聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた」/井上真偽(講談社文庫)感想*“奇蹟の実在”証明に挑む一風変わったミステリー*レビュー4.1点

聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた (講談社文庫)

聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた (講談社ノベルス)

【悪魔の証明に挑むドン・キホーテ】

いやぁ、ユニークなミステリーですねぇ。面倒臭いけど、面白い。

浮世離れした登場人物たちが繰り広げる、侃々諤々の推理合戦。奇蹟の実在を証明するために人知の及ぶあらゆる可能性を否定する、というアプローチが新鮮です。

一見キワモノ的なミステリーに見えますが、中身は、緻密な論理を縦横に駆使した、堂々の本格推理小説。頭の体操にはもってこいのミステリーかと思います。

【あらすじ】

フーリンが立ち寄った、とある里村には、〈カズミ様〉と呼ばれる聖女の伝説が残されていた。昔、望まぬ嫁入りを強いられたカズミという娘が婚礼の際男衆を皆殺しにしたという。以来、その娘は女の守り神として崇められ、長年、村外れの祠に祀られていた。

フーリンは翌日、村の有力者の俵屋家の伝統的な婚礼を見学に行く。と、その席で悲劇が起こる。同じ盃を回し飲みした両家の出席者のうち、毒死した者と何ら異常がなかった者が交互に出現する、“飛び石殺人”が発生したのだ。

犠牲者は、花婿、花婿の父、花嫁の父の男3人と盃を舐めた犬1匹。フーリンの後を追ってその場に駆け付けた少年探偵・八ツ星聯(レン)は、師と仰ぐ天才探偵・上苙(ウエオロ)丞譲りの推理力で容疑者の犯行可能性をことごとく否定していく。

やがて、死んだ犬の所有者が現れて、事態は急展開。フーリンや八ツ星は窮地に追い込まれるが……上苙は奇蹟の実在を証明して、彼らを救うことができるのか?

【感想・レビュー】

容疑者は複数。それぞれの容疑者の犯行可能性を論理的かつ完璧に否定し去ることで(人の手による)犯罪の不成立を証明し、それによってこの世に奇蹟が実在することを証明しようとする青髪の探偵・上苙。

まあ、平たく言えば“悪魔の証明”みたいなもので、どう考えても無理筋の話なんですが、それを逆手に取って本格ミステリーに仕立て上げてしまう作者の才能が凄い!

まず、“人知の及ぶあらゆる可能性を否定する”という方法論の面白さ。その発想は、まさにコロンブスの卵、目から鱗の驚きです。そして、可能性の完全否定に至る論理展開の鮮やかさ(この作家、相当の切れ者と見ました)。真っ当な推理であれ、屁理屈であれ、揚げ足取りであれ、上苙の向かうところ敵なし。『その可能性はすでに考えた』という決め台詞がカッコいいですね。

また、この作品、発想がユニークなだけでなく登場人物もかなりブッ飛んでいます。とりわけ印象的なのが、元中国裏社会の幹部にして絶世の中国人美女・フーリンと、上苙の元一番弟子にして頭脳明晰な少年探偵・八ツ星聯。これに上苙が加わったら、もう完全にアニメの世界です(上苙はブラック・ジャックふう、聯はコナン君ふう、フーリンは峰不二子ふうですねw)。

この異様に濃いキャラの面々が古色蒼然とした山里から非情の中国裏社会へと舞台を移しながら推理バトルを繰り広げる訳ですから、冷静に考えると、かなりシュールな展開なんですが、読んでいて不思議と違和感はありません。これもやはり作者の筆力の賜物と言うべきか、要するに話が単純に面白いから少々のツッコミどころなんて気にならないんでしょうね。

後々まで印象に残るタイプのミステリーとは言えないかもしれませんが、奇想天外なミステリーが読みたいとか、知的遊戯を楽しみたい、頭の体操をしたいという向きにはオススメの一作かと思います。