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🔴本「7月24日通り」/吉田修一(新潮文庫)感想*低評価の原因はモテ男に対する僻み?*レビュー3.6点

7月24日通り (新潮文庫) 

7月24日通り (新潮文庫)

【読者の属性によって評価が分かれる作品】

お盆の墓参りも何とか済ませて、ようやくホッと一息。ぼちぼち日常に戻ろうかと思っています。

……で、今回は、書店に行く暇がなかったので、本棚に眠っている本からのチョイス。ちょっと古いですが、男性作家が描く“平凡な独身OLの物語”ってどんなものかと思って選んでみました。

ちょくちょく気になる言葉に出くわして、ハッとしたり、フームと唸ったり、あるあると頷いたり……さすがは芥川賞作家、その洞察力の深さに感心します。

しかし、読後感はイマイチ。若い読者だとヒロインへの共感度は高いのかもしれませんが、個人的には、娘を持つ父親の目線で見てしまうせいか、あまりヒロインに共感できません。

この作品、読者の属性(年齢、性別、環境等)によってかなり印象が違ってくる作品かなと思います。

【あらすじ】

地方在住のOL・小百合は、港の見える自分の街をリスボンの街並みになぞらえることを秘かな愉しみにして、退屈な日々をやり過ごしていた。

そんな折、高校時代の旧友から、陸上部の同窓会の知らせが届く。聞けば、小百合のかつての憧れの先輩・聡史も出席するという。

たいした期待もなく出席した小百合だったが、一段と魅力的になった聡史を見て、彼女の胸はときめく。

しかし、その席に、聡史の高校時代の恋人だった亜希子が現れたことで、小百合の淡い期待は萎んでいく……。

【感想・レビュー】

地味で目立たない地方在住のOLが、それまでの臆病な自分と訣別するために、あえてハードルの高い恋にチャレンジするというお話。

自分の住む街をリスボンの街並みになぞらえて退屈な日常を愉しむ、という発想がユニークですね。ヒロイン・小百合のこういう遊び心はとてもいい感じです。

しかし、読み進めるうち段々と彼女の素の部分も見えてきて、なんだかなぁという気分になってきます。

初告白された相手が自分のなかでランク外の男の子だったという理由でひどく落ち込んでみたり、弟の彼女を同類嫌悪して二人の恋路を邪魔してみたり、分不相応と分かっていながらイケメン男になびいてみたり……うーん、これがフツーなんですかね。幼い頃から“その他大勢”のポジションにいた女の子の屈折した思いというのも分からなくはないけれど、どこか上から目線というか、底意地が悪いというか、そんなところが垣間見えて、ちょっとガッカリです。

しかし、冷静に考えたら、本音のところはみんな似たりよったりかもですね。シニカルに見れば、イジワルな印象もあるけれど、フラットに見れば、正直で不器用な女性なんだろうなとは思います。

ただ、そうは言っても、ラストの小百合の決断は、何か裏切られたような気がして、苦さが残ります。年輩者なら、リスクを承知の上で一歩を踏み出そうとする彼女の決意を称賛してあげるべきなんでしょうが、割り切れない気持ちが先に立って、どうも素直に拍手を贈る気にはなれません。

よくよく考えてみると、これは、小百合に対する失望というより、聡史に対する反感の方が大きいような気がします。その正体が、気に食わない男に娘を盗られる父親の不快感なのか、はたまた、未だに“その他大勢”のポジションにいるオッサンの、モテ男に対する不信感なのかはよく分かりませんが……。

映画化されたとき、小百合役は中谷美紀、聡史役は大沢たかおだったですかね。正直、羨ましい。いいトシこいて情けないけど……やっぱり聡史には腹が立つなぁ。