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🔵映画「ダンケルク」/(2017イギリス,アメリカ,フランス)感想*スケールが大きい割には印象が薄い映画*レビュー3.6点

ダンケルク [Blu-ray]

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【イギリスはこの歴史的大敗をどう総括しているのか】

第ニ次大戦初期、ドイツ軍の侵攻により北フランスのダンケルク海岸に包囲された40万の英仏連合軍兵士の大撤退作戦(ダイナモ作戦)を、陸、海、空の三つの視点から描いた映画。

1964年版「ダンケルク」(アンリ・ヴェルヌイユ監督、ジャン=ポール・ベルモンド、カトリーヌ・スパーク主演)のDVDも持っているので、どちらから観るべきか迷ったのですが、基本、新し物好きなので、先ずは2017年版(本作)からということで……。

ちなみに、1964年版と2017年版の外に、もう一つ「激戦ダンケルク/1958英」という映画もあるようです。

イギリスやフランスがこの歴史的大敗をどのように総括しているのか、興味深いところですが、そのあたりは全作観終わった後に見えてくるのかなという気がします。

【あらすじ】

ダンケルク海岸に追い詰められた40万の英仏連合軍兵士を救出するため、度々救助船が海岸へ向かうが、その都度敵の爆撃により船は撃沈され、海岸の兵士にも多数の死傷者が出ていた。

もはや一刻の猶予も許されないなか、空では、イギリス空軍のスピットファイアが地上の兵士を守るため、数的優位に立つドイツ空軍機と熾烈な空中戦を展開し、海では、イギリス政府の要請を受けた多数の小型漁船が兵士を海岸線から救出するためダンケルクを目指す。

官民一体となった決死の救出作戦は、はたして成功するのか……。

【感想・レビュー】

これは評価が分かれそうな作品ですね。「評価する」、「評価しない」、「分からない・何とも言えない」の三択なら、自分は「分からない・何とも言えない」と回答しそうです。

描かれているのは主に、ドイツ軍の爆撃によって海岸線からの脱出がことごとく阻止される様子、スピットファイアとドイツ空軍機との熾烈な空中戦、民間の漁船が兵士救出のため海岸へと向かう様子など。

その間に、小型漁船を操って兵士の救出に向かう漁師、英雄的行為に憧れてその漁船に乗り込む町の若者、イギリス兵に紛れて脱出しようとするフランス兵、そのフランス兵を犠牲にして脱出しようとするイギリス兵、燃料切れを覚悟の上で空中戦を続けるイギリス軍パイロットなど、それぞれの群像劇が映し出されます。

この作品で評価したいのは、名もない兵士や漁民たちを主役に据えているところでしょうか。彼らが身近な存在であるだけに、戦争の不条理性がより一層のインパクトで迫ってくるという部分はあるかと思います(姿の見えない敵の攻撃であっけなく兵士が死んでいく様は不条理そのものです)。

また、台詞が極端に少なく女っ気がないところも、殺伐とした戦場の雰囲気を伝えるのには巧い演出かと思います。

一方、評価し難いのは、桟橋で救助船を待つ兵士の群れや空爆後海岸に横たわる夥しい死傷者などの映像が無機質すぎて、現実感が乏しいところでしょうか。この点は、映像の美しさが逆にリアリティを削いでいる気がしないでもありません。……もっとも、この無機質さこそが戦争の本質、と評価する意見もあるかとは思いますが。

また、撤退のシーンがあっけないところも気になります。いくら漁船が大挙して押しかけたにしろ40万もの兵士の救出には相当な困難が伴ったはず。なのにその模様が省かれているため、エッ、いつの間に?と拍子抜けしてしまいます。何か、先を競って逃げ出した兵士はあらかた死んで、海岸でじっと待機していた大半の兵士は無事救助された、みたいな印象が残るのが残念です。

それに、イギリス空軍もちょっとカッコよすぎますね。燃料切れで戦うなんて、とても史実とは思えないのですが……。空中戦が始まって気を良くした監督が、”リアリティにこだわりつつもエンタメ性も盛り込みたい”という色気を出したように思えなくもありません。このあたりが商業映画の限界かなと思います。

ただ、同じヒーローでも、初老の漁船長は渋いですね。“自分たちの世代が起こした戦争だからその責任は取る”という彼の思いは本物だと思います。

……結局、この映画の主題は、理不尽な戦争(または歴史的大敗)への自戒なのか、あるいはダイナモ作戦の参加者へのリスペクトなのか、どっちなんでしょう。全くのエンタメ映画でもなく、かといってドキュメンタリータッチの映画でもなく……そのあたりのスタンスの曖昧さが、冒頭の「分からない・何とも言えない」という評価に繋がっているのだと思います。