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🔴本「巡る桜 上絵師 律の似面絵帖」/知野みさき(光文社時代小説文庫)感想*なんだろう?この居心地の良さは……*レビュー4.2点

巡る桜: 上絵師 律の似面絵帖 (光文社時代小説文庫)

巡る桜: 上絵師 律の似面絵帖 (光文社時代小説文庫)

【人の情が身に沁みる】

書店でたまたま「上絵師 律の似面絵帖」シリーズの第四弾となるこの本を見かけまして……律ちゃんの後見人を秘かに自認する爺様としては、見過ごす訳にもいかず……ということで、早速読んでみました。

律ちゃんは相変わらずいい子ですねぇ。正直で思いやりがあって、不器用ながらもいつも一所懸命。彼女のその一途さ、ひたむきさが大好きです。香ちゃん、千恵さん、類姐さん、涼太に今井先生と、周りもいい人ばかりで、気持ちがほっこりします。

このシリーズのセールスポイントは、何と言っても、律ちゃんのひたむきさと下町人情の温かさですね。

で、今回は、弥吉や六太らの子どもたちが活躍し、たっぷり泣かせてくれます。やっぱり人の情ってありがたいものです。

【あらすじ】

片手間で始めた似面絵(似顔絵)の依頼はそこそこあるものの、本業の方は実入りの少ない巾着絵ばかりで焦りを覚える律。涼太との仲も思うように進展しないなか、ようやく念願の着物絵の注文を受けるが、「早く、安く」と条件を付けられ、なかなか筆が進まない。

そんな折、涼太の店で商品に古茶が混じるという騒動が起き、店は客離れによる経営危機に晒される。涼太の働きでどうにか客足が戻るようになった頃、更なる難題が。涼太に二つの縁談が舞い込んだのだ。

一つは得意先の大店の娘、もう一つは商売敵の主の姪。どちらも店の将来を思えば良縁なのだが……。

【感想・レビュー】

行先の見えない恋に心揺らしながらも職人としての誇りを胸にひたむきに仕事に打ち込む律。律への想いを遂げるためにも一日も早く店を切り盛りできる器量を身に付けたいと奮闘する涼太。そして、そんな二人を温かく見守る周囲の人たち……。

このシリーズを読むと、何だか自分も神田相生町長屋の一員になったような気がして、気持ちがフッと和みます(長屋の衆から”よっ、ご隠居!”なんて声をかけてもらえたら、嬉しいだろうなぁ)。

長屋の住人たちの隣近所への気遣いや大人たちの子どもたちへの慈しみがあまりに温かいので、田舎育ちの自分としては、郷愁を感じるというか、古巣に帰ったような気分になるんでしょうね(もっとも、律の隣家のおかみのようなお節介オバサンが近所にいたら、煩わしくはありそうですが……)。このアットホーム的“居心地の良さ”がこのシリーズの特長かなと思います。

……で、今回は、以前ほどドラマチックな事件はなかったような気がします。ただ、それはそれでよし。律とその周りの人たちの日常の悲喜こもごもを丹念に掬い取ることで(市井の人々の生きる悲しみとかささやかな幸せといった)人の営みの実相を浮き彫りにしている感じがして、かえって好印象です。

今回も途中まで律と涼太の仲は一進一退。終盤ようやく涼太が男気を見せてくれたので、後見人の爺としても一安心ですが、無事祝言を挙げるまでには、もう一波乱、二波乱はありそうです(焦れったいなぁ。でも、時代が時代、しかも身分違いの恋だから仕方ないのかも)。

今回の主役は弥吉と六太ですね。身寄りのない弥吉を巡って、奉公先の主と、弥吉の妹・清の養父とが親権?争いをする場面は人情噺の極めつけ。母親を亡くしたばかりの涼太の店の奉公人・六太が飛騨の隠居・古屋と親子の契を交わし、文のやり取りを約束する場面も強く心を揺さぶります。“たとえ血は繋がっていなくても身内になれる”という律の言葉は本当にそのとおりだなと思います。

このシリーズは疲れたときの癒しの一冊。やっぱりこの居心地の良さは何とも言えません。