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🔵映画「女神の見えざる手」/(2016フランス,アメリカ)感想*ジェシカ・チャスティンの圧倒的な存在感*レビュー4.4点

女神の見えざる手 [Blu-ray]

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【凄まじい展開力に口があんぐり】

銃規制法案を巡る孤独なロビイストの捨身の闘いを描いた傑作サスペンス。

つい最近、銃擁護派の最大の圧力団体である全米ライフル協会(NRA)が存続が危ぶまれるほどの深刻な財政危機に陥っている、という報道記事を読みました。

アメリカも変わりつつあるんでしょうか。

銃を持つ権利はアメリカ人のアイデンティティや憲法に深く関わる問題なので、余所者がとやかく言うべきではないのかもしれませんが、それでも3億丁もの銃がフツーに流通している現状はとてもマトモとは思えません。

そもそも“銃には銃を”という思想の根本にある人間不信(他人は信用ならないという考え方)が悲しいというか、貧しいというか。“汝の隣人を愛せよ”と説く宗教を信奉しながら、他人を怖れて銃を持つ、という矛盾にどう折り合いをつけているのか、一度銃擁護派の方に聞いてみたいものです。

現実的には、銃の廃絶は核の廃絶と同じくらい難しいのでしょうが(銃の保持も核の保持も思想は同じ)、人間は決して愚かな存在ではないと証明するためにも、少しずつでも規制が進んでいくことを期待しています。

……ということで、この映画も銃規制の機運の醸成に一役買ったのでしょうか。そのあたりはよく分かりませんが、議会の内幕やら議員とロビイストの関係やらがかなりリアルに描かれているので、問題提起にはなったのかもしれませんね。

こういう社会派ドラマがハリウッドの真骨頂だと思います。今日的なテーマを扱った重厚な作品でありながら、エンターテイメント性を失わないところもさすがですね。ハリウッドの底力を改めて痛感した一作です。

【あらすじ】

大手ロビー会社に籍を置き、数々の依頼を成功に導いて政界やマスコミからも一目置かれる存在の政治ロビイストのエリザベス。

その辣腕ぶりに目を付けた銃擁護派団体は有力議員を通じて、彼女に銃規制法案の廃案に向けた工作活動を依頼する。

これを断ったエリザベスは、会社と対立。僅かな部下を引き連れて、銃規制派の小さなロビー会社に転職し、銃規制法案の可決に向けた活動を開始する。

エリザベスの奇策が功を奏し、形勢は次第に優位に転じていくが、巨大な権力と豊富な資金力を持つ敵陣営も黙っていない。

スタッフが命の危険に晒され、自身のスキャンダルも暴かれて、形勢は一気に敵陣営へと傾いていく。

はたして満身創痍のエリザベスに起死回生の一手はあるのか……。

【感想・レビュー】

なんて刺激的で濃密な132分でしょう!久し振りに時間を忘れて見入ってしまいました。これは文句なしですね。大人の鑑賞に耐え得る映画です。

まずヒロインのキャラクターが凄い。勝利至上主義で、勝つためには手段を選ばない冷酷非情の女、エリザベス。敵を罠に嵌めるのは常套手段、味方でさえ平気で欺き、その挙句、”たとえ仲間であっても利用できるものを利用しないのは仕事に対する義務の放棄”なんて平然とうそぶく、まさに制御不能の危険な女です。

しかし、勝利だけが生きる目的のエリザベスが、何故か銃規制に関しては、勝ち目の薄い擁護派に回ります。とてもお近付きにはなりたくない女というイメージが出来つつあったタイミングでのその決断に、“善い行いをする”という彼女の良心が覗いたような気がして、ちょっとホッとします(……劇中、ソクラテスのエピソードが出てきますが、これは、彼女の決断を『大切なのは、ただ生きることではなく、善く生きることだ』と言い残して死んだソクラテスになぞらえているんでしょうか?)。エスコート業の男を金で買うあたりも彼女の深い孤独を際出させて、憐憫の情も湧いてきます。

こんなアンチ・ヒーローの難しい役どころを見事に演じ切ったのが『ゼロ・ダーク・サーティ』のジェシカ・チャスティン。この演技はアカデミー賞級の怪演ですね。存在感がハンパないです。アイアン・レディというかハンサム・ウーマンというか、日本式に言ったら鉄火場の姐御といったところでしょうか。ヒールの音をカツカツ響かせながらオフィスを闊歩する姿のカッコいいこと!思わず見惚れてしまいます。

脚本と演出も素晴らしいですね。丁々発止のかけ合いが息を呑むような緊張感を生み出し、“すばやく考え、決断し、行動する”ロビイストのイメージをよりリアルなものにしています(……あまりにテンポが速くて最初は戸惑いますが、次第に圧倒されます)。

逆転、逆転、また逆転の手に汗握る展開もエンターテイメントとして申し分なし(まるでチェスの達人の完璧な詰め手順を見ているかのよう)。久し振りに本物のサスペンス映画を観た気がします。