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🔴本「dele ディーリー」/本多孝好(角川文庫)感想*期待以上でも以下でもないけれど、安定の面白さ*レビュー3.8点

dele (角川文庫)

dele (角川文庫)

【ヤバいデータはお早めの削除を】

誰にでも墓場まで持って行きたい秘密の一つや二つはあると思います。本人がそれを胸の裡に秘めている限りは、死んでしまえばそれまで、永遠の秘密になる訳ですが、それをパソコンやスマホにデータとして残している場合はどうでしょうか。たぶん、死ぬに死ねないって気分になるでしょうね。

そこで、“死後、そんな曰く付きのデータを本人に代わって削除します”という男たちが登場する、という訳です。

確か、絲山秋子の『沖で待つ』も似たようなモチーフだったと記憶していますが、この作品はデータの削除をビジネス化しているところが現代的というか、目新しい感じがします。

【あらすじ】

死後、誰にも見せたくないデータを本人に代わってデジタルデバイスから削除する、というビジネスを請け負う「dele.LIFE(ディーリー・ドット・ライフ)」。その所長・圭司とたった一人の社員・祐太郎が、依頼人の秘密のデータを覗いたことから遭遇するミステリアスな事件の数々とその真相を描いた連作小説。

収録されている五つのエピソードのなかで最も印象に残ったのは、『ドールズ・ドリーム』。

《ドールズ・ドリーム》 

「dele.LIFE」の事務所を訪れた男が、何やら所長の圭司に詰め寄っている。死期の迫った妻が“死後に削除してほしい”と依頼したデータを、夫である自分に見せてほしいというのだ。

しかし、圭司は、依頼人との契約上見せられないと突っぱねて、男を追い返す。

契約の履行のため依頼人の死亡確認に当たった祐太郎は、夫婦の間に幼い娘がいることを知る。娘は、入院中の母に自分のピアノ演奏を録音し、毎日それを聴かせているという。

父娘の身の上に同情した祐太郎は、圭司に対し、残された者のためにデータを見せてやるべきだと強硬に主張し、圭司はしぶしぶこれを受け入れる。

しかし……依頼人が指定した『T.E 』とタイトルが付けられたフォルダの中身は空っぽだった。

『T.E』というタイトルは何を意味しているのか。フォルダはなぜ空だったのか。母親の死後、圭司と祐太郎が辿り着いた真実とは……。

【感想・レビュー】

本の帯によると、この連作集、山田孝之・菅田将暉主演でドラマ化され、今、絶賛?放送中みたいですね(テレビはほとんど見ないので)。たぶん、圭司役が山田孝之、祐太郎役が菅田将暉だと思うのですが、原作のイメージとドンピシャのキャスティング。あまりに違和感がないので、むしろ当初からこの二人をイメージして書かれた小説では、と勘ぐってしまうほどです。

小説の出来としては、正直、期待以上でもなく以下でもないといったところですが、『ドールズ・ドリーム』と『ストーカー・ブルーズ』はいいですね。

『ドールズ……』は幼い我が子に対する母親の深い情愛を、『ストーカー……』は底辺暮らしの兄に対する妹の、肉親ならではで複雑な想いを描いたものですが、どちらも悲しくはあるけれど、それ以上に希望とか救いを感じる物語です。この二作だけで十分元は取れるかなと思います。

作品全体の印象としては、ストーリー運びが本当にうまい作家だなぁと感じます。二転三転の展開は最後まで読者を飽きさせないし、ストンと腑に落ちる結末も見事です。

物語のキーマンは祐太郎。見かけと物言いは典型的なチャラオくんですが、実は人の痛みが分かる昔気質の人情家(亡くなったお祖母ちゃんの教育の賜物ですね)。常に弱者の側に身を置く彼の優しさがこの作品のバックボーンになっているように思います。で、ミステリー系の小説なのに、テイストは人情小説といった感じです。

理性的な圭司がやんちゃな祐太郎に徐々に感化され、結局、毎回データを開けてしまうところとか、祐太郎のお節介がちょっとウザいところとかは(ツッコミを入れたくはなりますが)、まぁ、ご愛嬌ですかね。

祐太郎の妹の死の真相や圭司の過去、圭司の父の秘密などがまだ明らかになっていないので、たぶん続編があるんだろうと思います。アンチテレビ派の私としては、ドラマ化された時点で続編への興味は薄れていますが、ただ、祐太郎と遙那(妹の幼馴染)の関係がどうなるのかは、ちょっと気になるところです。