お気楽CINEMA&BOOK天国♪

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🔵映画「メッセージ」/(2016アメリカ)感想*“瞬間、瞬間を大切に生きること”、それがこの映画のメッセージ*レビュー4.1点

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【未来が見える人生に意味はあるか?】

いやぁ、手強い作品ですね。他のジャンルの映画と比べてSF系の映画は元々ややこしいのが多いんですが、これは極めつけかも。

その上、この作品、SF映画の装いなのにヒューマンドラマ、女性映画、スピリチュアル映画として観ても違和感がないというボーダーレスの映画なので、尚更頭の整理が難しく、視聴後は、時間、空間、言語、思考、人生、愛などの言葉が脳内でループして、とりとめもない想念に囚われます。

一度観ただけで感想を語れるほど生易しい作品ではないのですが、かといって繰り返し観るほど人生に余裕がある訳でもないので……勘違いの点は悪しからずご了承を。

【あらすじ】

突如世界の12か所に出現した巨大な飛行体。謎の知的生命体との交信を図るべく軍に雇われた言語学者・ルイーズは、物理学者・イアンや軍の責任者・ウェーバー大佐らと共に飛行体に乗り込み、彼らとの意思の疎通を試みる。

彼らが地球に現れた目的は何か?各国は様々な手段で情報を得ようとし、やがて一部の言語の解析に成功する。

しかし、それが極めて危険な単語であったため、猜疑心を募らせた各国は、続々と飛行体に向け宣戦布告する。

緊迫する状況のなか、ルイーズはついに彼らの言語を理解し、そのメッセージを受け取る。彼らは人類の未来のために贈り物を届けに来たのだった。

彼らの贈り物とは何か?ルイーズは人類対知的生命体との戦争を食い止めることができるのか?そして……彼らとの出会いはルイーズの人生に何をもたらしたのか?

【感想・レビュー】 

なぜこの映画が分かりにくいのか。それは、過去・現在・未来といった時間の概念がない知的生命体の思考(言語)を、観る側が、因果律で時系列的に把握しようとするからだろうと思います。

観る側は、彼らの言語を唯一人理解できるルイーズを通してそのメッセージを把握することになりますが、彼女自身が彼らの言語の影響を受けて時間の概念がなくなっているので、その思考の前後関係が非常に分かりにくい構造になっているのです。

例えば、ルイーズを度々襲う幻覚。当初はデジャヴかフラッシュバックのような過去の記憶の再現かと思っていたんですが、知的生命体の言語をマスターしたルイーズは彼らと同じように未来が見えるようになっているので、状況的に、あの幻覚は未来の記憶ということになるんですね。ふーむ……なんだか分かったような分からないような。

それともう一つ分かりにくいのがこの作品の主題。これも当初は、“突然目的不明の宇宙人が目の前に現れたら、人類は戦うのか、静観するのか、逃げるのか”だと思っていたんですが、その主題は徐々にルイーズの内面の葛藤に収斂し、やがて“(未来や運命が予知できるとしたら)人はどう生きるべきか”というものに変容していきます。その極めて外的なものから極めて内的なものへの主題の変容がこの作品の意図を一層分かりにくいものにしている気がします。

この映画の原作は、アメリカ人作家デッド・チャンの短編小説「あなたの人生の物語」。映画も原作のイメージを最大限尊重していると見えて、かなり文学的趣向の強い仕上がりになってるように思えます。

(自信はないけど……)この作品のメッセージは二つ。一つは、人類の共存……人類の滅亡を防ぐためには国の垣根を超えた結束が必要ということでしょうか。もう一つは、生きることの意味……自分の未来や運命を予知できるとしたら人生は生きるに値するか、と問うているんでしょうね。たぶん、そんなトコだろうと思うのですが……。

ただ、二つ目のメッセージは、“自由意思は物事の結果に影響を及ぼさない”という決定論的立場(人は運命には逆らえない?)を前提としたもののようなので、あまりポジティブとは言えないのですが。この映画から終始寂寞とした印象(寂寥感や諦観)を受けるのは、きっとそういう思想が底流にあるからなんでしょうね。ラストのルイーズが見せる、まるで何かを悟ったような物静かな表情(希望も絶望も超越したような表情)はまさにそのことを体現しているように思えます。

これは、難解ではあるけれど、力強くて美しく知的な作品。映像と音響のクオリティの高さが強く印象に残ります。

主演はエイミー・アダムス。過酷な運命を受け容れて、生きる希望を束の間の幸せに求める女性・ルイーズを完璧に演じています。一方、ホークアイ(アベンジャーズ)のジェレミー・レナーは、ほぼ見せ場なく終わって存在感ゼロ。やっぱりこれはSFの皮を被った女性映画なのかもしれませんね。