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🔵映画「フェリーニのアマルコルド」/(1973イタリア,フランス)感想*可笑しくて切なくて愛おしくて美しくて……この素晴らしきフェリーニの世界!*レビュー4.4点

フェリーニのアマルコルド 4K修復版 [Blu-ray]

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【この素晴らしき世界】

フェリーニの最高傑作との呼び声も高い「アマルコルド」、ようやくの初Blu-ray化です。

フェリーニ作品にはちょっと苦手意識があったんですが、これはいいですね。陽気で大らかで人間愛に溢れていて……即効性はないけれど、後でじわりと沁みてくる映画です。

視聴後は、フェリーニがニッコリ笑いながら“人生ってこんなもんでしょ”って言ってるような気がして、何だかホッコリします。

【あらすじ】

銀幕のスターを夢見るあまり婚期を逸してしまった町一番の美女グラディスカ。チッタは、そんな彼女に熱を上げ、しつこく付き纏うが、いつも軽くあしらわれる。

一方、父親は反ファシズムを唱えて拷問を受け、母親は病気で入院し、色情狂の伯父は精神病院送りと、ろくでもないことばかり。

しかし、町に出れば様々な人たちの逞しい暮らしがあって、皆で春の火祭り、夏の豪華客船見物、冬の雪合戦、そして再びの春の結婚式など町ぐるみの風物詩を謳歌しているのだった……。

1930年代の北イタリア、アドリア海に面した港町リミニ(フェリーニの故郷)を舞台に、少年チッタとその家族、そして彼らを取り巻く町の人々の1年間の営みを詩情豊かに描いたノスタルジック・コメディ。

【感想・レビュー】

アマルコルドとは、“私は覚えている”という意味の方言だそうです。そのタイトルどおり、この映画はフェリーニの少年期の回想集。

猥雑でありながら高貴、混沌としながらも調和がとれていて……なんて豊かな世界なんでしょう‼

やっぱりフェリーニは噂に違わぬマエストロですね。この作品には、人の“生”にまつわる喜びや悲しみの全てが詰まっています。加えて、四季の移ろいを鮮やかに捉えた圧巻の映像美、ニーノ・ロータの甘美な調べなど……まさに唯一無二。フェリーニの映像言語の豊かさに驚嘆します。

これはフェリーニ流の人間賛歌。グラディスカ、チッタとその家族、一風変わった教師の面々、イタズラ盛りの悪童たち、肉感的なタバコ屋のオバサン、盲目のアコーディオン弾き、田舎詩人……皆、可笑しくて愛おしくて、ホントにチャーミングな人ばかりです。

中でもひときわ強烈な個性を放っているのが色情狂のチッタの伯父さん。庭の大木に登って“女が欲しいよー!欲しいよー!”と叫び続ける伯父さんと、伯父さんを木から下ろそうと必死に説得する家族の果てしない攻防が可笑しいやら物悲しいやらで、“ああ、これが人間なんだ”と妙に納得してしまいます。

町の人たちがこぞって豪華客船を見物に行くシーンも印象的ですね。漆黒の海にボートを漕ぎ出し、不夜城のような巨大な客船に出くわしたときの彼らの反応が見ものです。その余りの壮麗さに一斉に歓声が上がり、中には泣き出す者も。美に圧倒され、陶酔する……これもまた人間ならでは。(田舎者らしい)彼らの素朴な感性がとても愛おしく思えます。

ストーリーらしいストーリーはなく、散文詩のような映画ですが、エピソードの一つ一つ、映像の一つ一つに力があって、それらが後になってジワッと効いてきます。たぶんこういうのを名作というんだろうと思います。

それにしても……ファシズムが台頭する最中、権力にへつらうことなく、自由にしたたかに生きて、楽しむことを忘れないイタリア人のメンタリティって、凄いもんだと思います。やっぱり人生、楽しんだ者勝ちですね。