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🔴本「コリーニ事件」/フェルディナント・フォン・シーラッハ(創元推理文庫)感想*ドイツの刑事事件弁護士が描く衝撃と感動のリーガル・サスペンス*レビュー4.5点

コリーニ事件 (創元推理文庫)

コリーニ事件 (創元推理文庫)

【これは圧巻!衝撃と感動のリーガル・サスペンス】

ベルリンで刑事事件弁護士として活躍する著者のリーガル・サスペンス小説。

デビュー作の「犯罪」も凄い!と唸ったけど、これはそれ以上かも。

200ページ足らずの中篇ながら、とにかく訴求力がハンパなし。衝撃と感動の一冊です。

やっぱりシーラッハは只者じゃない!

個人的には、こういう作家こそノーベル賞に相応しいと思うのですが……。

【あらすじ】

ブランデンブルクのホテルの一室で、高名な富豪の老人が殺された。容疑者として逮捕されたのは67歳のイタリア人、コリーニ。

新米刑事事件弁護士のライネンは、コリーニの弁護を買って出るが、その後、被害者がライネンの亡き親友の祖父で、少年時代に世話になった恩人だったことが判明する。

ライネンは、弁護士としての使命感と人間としての感情との板挟みに苦悩しつつも、コリーニの弁護を続けることを決意するが、肝心のコリーニは、犯行の動機を一切語ろうとしなかった。

やがて、コリーニ事件の裁判が始まるが、被害者遺族側に付いたのは辣腕弁護士のマッティンガー。圧倒的に不利な状況で、ライネンは独自に事件の真相を追う。

法廷で繰り広げられるライネンとマッティンガーの熾烈な攻防戦。そして、その果てに明らかとなった驚愕の真相とは……。

【感想・レビュー】

ドイツ(人)の良心を感じる作品。映画化も進んでいるとか(完成したんでしょうか?)。テーマは少し違いますが、「善き人のためのソナタ」と似た雰囲気の映画になりそうな予感がします。ぜひ観てみたいものです。

この作品、“ナチスの戦争犯罪”がテーマになっていますが、シーラッハはこのテーマを通して、現存するある法律の抜け穴を(法律家として)厳しく指摘し、戦争後の憎しみの連鎖をどう克服すべきかを(作家として)読者に提示しています。

戦後70年以上経ってなお、負の歴史から目を逸らさないシーラッハの真摯で誠実な姿勢にまずは敬意を表したいと思います。

加えて、この作品がドイツでベストセラーになったという点もドイツ国民の良識を窺わせる事実として素直に感銘を覚えます。

もっとも、この作品が本国で幅広く支持を集めたのは、(そういった社会的意義への評価というより)単純に小説として面白いからというのが一番の理由だろうと思います。

読んでいて感心するのは、シーラッハの人を描く力。抑制の効いた簡潔な文体なのに何でこんなに血の通った人間が描けるんだろう、と不思議でなりません。文章が研ぎ澄まされている分、登場人物の心情がダイレクトに伝わってくるのかもしれませんね。

コリーニの動機の解明を軸に据えたストーリー展開も緊迫感があって読み応えがあります。善良で平凡な人間が罪を犯す不条理を描いている点はデビュー作「犯罪」と同じ。人は誰しも状況次第で罪を犯す可能性があるというシーラッハの警告(人生は薄氷の上を歩くようなもの!)を含んだ濃密な人間ドラマは圧巻と言う他なく、読後はしばし呆然とします。

ライネンの弁護士としての葛藤、コリーニと被害者との想像を絶する因縁、ライネンとマッティンの丁々発止の舌戦……どの場面をとっても、リーガル・サスペンスとして一流の出来だと思います。

……以下は余談ですが、

法曹関係者に最も必要な資質は、“素朴な正義感”だろうと思います(この作品を読んで更にその意を強くしました)。しかるに、素朴な正義感より教条主義的なイデオロギーを優先し、政治活動に前のめりになっている(かに見える)今の日本の弁護士会にはいささか辟易しています(偏見でしょうか?)。日本にもシーラッハのような弁護士が現れてほしいと切に願っているのですが……。