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🔴本「妖怪博士 私立探偵明智小五郎」/江戸川乱歩(新潮文庫)感想*大人も子供も真っ直ぐだった時代の“よいこ”の探偵小説*レビュー4.1点

妖怪博士: 私立探偵 明智小五郎 (新潮文庫nex)

妖怪博士: 私立探偵 明智小五郎 (新潮文庫nex)

【“よいこ”のための探偵小説】

ぼ ぼ ぼくらは少年探偵団 勇気リンリン瑠璃の色♪……(少年探偵団の歌)、懐かしいなぁ。鼻タレ小僧だった頃、よく歌ってました。ラジオで流れてたのか、それともテレビで観てたのか、憶えていませんが……。

私、以前から江戸川乱歩の大ファンで、彼の本格推理ものと怪奇幻想ものの著作は一通り読んでいるのですが、少年探偵シリーズは今回が初読みです(乱歩の真骨頂は、怪奇幻想ものだと思います。「孤島の鬼」とか「押絵と旅する男」とか凄いもんです)。

この作品、少年少女向けの探偵小説ですが、昭和初期のレトロ感が何とも言えませんね。作品の端々に古き良き時代の趣が感じられて、大人でも十分愉しめる作品かと思います。

【あらすじ】

ある日の夕暮れ時、曲がり角に奇妙な印を書き残しながら歩く怪しい老人がいた。

帰宅途中の少年探偵団員、相川泰ニは不審に思って、こっそりとその跡をつける。老人が向かった先は一軒の古い洋館だった。

そこで手足を縛られた美少女を発見した泰ニは、勇気を振り絞って室内に潜入するが、美少女は蝋人形の偽物で、彼はたちまち蛭田博士と名乗る男に捕らわれてしまう。

帰宅した泰ニはその夜奇行に走り、その後、少年探偵団の三人の仲間も蛭田博士に捉えられ、誘拐事件の人質となってしまう。

蛭田博士とは一体何者なのか?事件解決は名探偵、明智小五郎に託される。しかし、明智に異常な対抗心を燃やす謎の探偵、殿村弘三の参戦により、事件は思わぬ方向へと向かっていく……。

【感想・レビュー】

物語の語り口は、講談師の講釈か活動写真の弁士の口上を聞いてるかのよう。多少古めかしくはあるけれど、テンポが良くて流れるような名調子です。

登場人物が不可解な行動をとるたび、作者が先回りして、疑問点を整理したり、読者を煽ったりする趣向もいかにも少年少女向けという感じで、乱歩の優しい心配りが感じられてちょっと和みます。

なるほど、だからこそ多少言い回しが古くても、いつの時代の子どもたちにも受け入れられてきたんでしょうね。

ストーリーの軸は、天才明智と怪人二十面相のプライドを懸けた頭脳対決。二人の虚々実々の駆け引きは大人が読んでも結構愉しめるレベルですが、それ以上に面白いのが怪人二十面相のキャラクターです。

悪辣で残忍なのに、美術品を愛し血を嫌うなど、スマートで紳士的。どうも犯罪を美学と考えているフシがあり、また明智との対決をゲームとして愉しんでいるふうでもあって、何とも憎めないキャラクターです。しかも変装の天才という強キャラなので、少年もの小説の悪役としては最高かもしれませんね。

もう一つ印象に残るのは、少年探偵団のメンバーの“子供らしさ”。腕白だけど正義感が強くて勇気があって、みんなよい子でほっこりします(ケストナーの「飛ぶ教室」や映画の「小さな恋のメロディ」に登場した少年たちを思い出します)。

子どもたちだけでなく、戦前の家族の有り様もいい感じです。子は親を敬い、親は子を慈しみ、“あぁ、こんな時代もあったんだ”と、懐かしいような、羨ましいような感傷を覚えます(当時の理想的な家族像が描かれているのでしょうが、確かにこういう家庭環境なら子どもも真っ直ぐ育つでしょうね)。

……ということで、孫の小学校の入学祝いにはこの少年探偵シリーズを買ってあげることに決めました。……孫ができたらの話ですが。