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🔴本「初秋」/ロバート・B・パーカー(ハヤカワ・ミステリ文庫)感想*スペンサー流“男の流儀”に痺れる傑作ハードボイルド小説*レビュー4.3点

初秋 (ハヤカワ・ミステリ文庫―スペンサー・シリーズ)

初秋 (ハヤカワ・ミステリ文庫―スペンサー・シリーズ)

【スペンサー流“男の流儀”に痺れる一作】

スペンサー・シリーズ第7作として、1981年に発表された傑作ハードボイルド小説。

スペンサー・シリーズは初読みですが、面白いですね。なによりスペンサーがカッコよすぎです。

“男らしさ”という言葉が死語になりつつある昨今、この作品は、“男らしさ”のホントの意味を教えてくれる一作かと思います。 

たぶん女性が読んでも、スペンサーの包容力と優しさに痺れるんじゃないかと思うのですが。

【あらすじ】

離婚した夫が連れ去った息子を取り戻してほしい……美貌の母親から依頼を受けた私立探偵スペンサーは、直ぐに行動を開始し、容易く事を成し遂げる。

しかし、母親の元に連れ戻された15歳の少年ポールは何事にも無気力で無関心、誰に対しても心を開こうとしなかった。

父親も母親もポールへの愛情はなく、彼を夫婦間の駆け引きの材料として利用しているだけと気付いたスペンサーは、ポールを自分の元で自立させようと決心する。

スペンサーは恋人のスーザンが所有する別荘にポールを連れて行き、規則正しい生活、ボクシング、大工仕事などを叩き込む。

しかし、その後、息子を連れ戻そうとする父親の行動が次第にエスカレートし、スペンサー、スーザン、ポールはとうとう銃の標的に。

ポールを守るため、スペンサーは反撃に打って出るのだが……。

【感想・レビュー】

フツーのハードボイルド小説と違うのは、主人公(スペンサー)のキャラクターですかね。無骨な男性原理主義者という点はありがちですが、話好きで情が厚くてお節介なところがちょっと変わってます。この作品がハードボイルド小説にしては珍しく温かみのある作品に仕上がっているのは、たぶんそのためだろうと思います。

作品の主題は、ポールに注ぐスペンサーの愛。スペンサーはポールを一人前にするために様々なトレーニングを命じます。その要諦は、規則正しい生活を送ること、体を鍛えて自分の身は自分で守れるようにすること、その上で自分の好きな事を見付けること。これがスペンサーの考える自立の形です。

……“イクメン”なんていう最近の父親のイメージからすると、随分マッチョに映るかもしれませんが、古い人間からすると、スペンサーの教育は至極真っ当に思えます。なんだかんだ言っても、父親には父親の役割があると思うのですが……古いですかね(偏見なんでしょうが、“イクメン”と聞くと家に母親が二人いるような気がして、妙な違和感を覚えます)。

スペンサーの生き方もカッコいいですね。徹底した自己管理、名誉とか誇りを重んじる精神主義、芸術に関する深い造詣等々、どれをとっても独特の流儀があって、それが多少アナクロであるだけにかえって失われてしまった“男らしさ”を見せられているような気がします。こういった“男の流儀”を味わうのがハードボイルド小説の醍醐味なんだろうと思います。

スペンサーの包容力や優しさに甘さを感じる読者もいるかもしれませんが、そういう人は、スペンサーの用心棒・ホークの登場で溜飲が下がるだろうと思います。こちらは、非情だけど侠気があって、ハードボイルドそのもの。スペンサー以上にカッコいい男かもしれません。