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🔴本「スケートボーイズ」/碧野圭(実業之日本社文庫)感想*二番手スケーターの成長を活写した青春スポーツ小説*レビュー3.9点

スケートボーイズ (実業之日本社文庫)

スケートボーイズ (実業之日本社文庫)

【ケレン味のない青春スポーツ小説】

人気のフィギアスケートをモチーフにした青春スポーツ小説。

平昌五輪の日本人選手の大活躍も記憶に新しく、タイムリーかも、と思って読んでみました。

この小説、選手たちのスケート愛がいいですね。上手下手に関係なく、みんなが自分のベストを尽くしてる姿がとても爽やかです。

また、フィギアスケートの採点のルールとか、競技会の仕組みとか、フィギア界の内幕なども知れて、トリビア的にも楽しめる小説かなと思います。

【あらすじ】

大学4年生の全日本選手権を競技人生の最後の試合と決め、ケガによる1年間のブランクから復帰した和馬。

基礎練習から再スタートの和馬に比べ、小学生の頃から同じコーチの下で競い合ってきた光流は、今や日本のフィギアスケート界を担う若きエースへと成長していた。

光流への劣等感、親への気兼ね、就活への焦り、恋人との不和……和馬は様々な葛藤を抱えながらも、ひたむきにスケートに打ち込む。“全日本で待ってる”という光流の言葉に応えるために。

何とか全日本選手権の切符を勝ち取った和馬は、フリーの曲として「未完成交響曲」を選ぶ。それは長い間苦楽を共にしたコーチの思い出の曲だった。

そして、光流が選んだ曲も「未完成交響曲」。和馬は、光流の意図を測りかねるが……。

【感想・レビュー】

光流のモデルは羽生くん?神代は髙橋くん?でしょうか。まあ、キャラが多少カブってても彼らが主役でもないので、それもご愛嬌ですが。

主役は、全日本選手権出場を目指す大学生フィギアスケーターの和馬。世界のトップスケーターと比べると、“その他大勢”のポジションですが、この作品は、和馬ら、二番手、三番手のスケーターにスポットライトを当てているところがいい感じです。

華やかな世界の裏側の地味な部分……スケーターの生活不安だとか、日々の地道な努力だとか、他のスケーターとの確執だとか、素朴なスケート愛だとか……が、光流や神代のようなトップスケーターだとステージが違いすぎて何だかピンときませんが、和馬だと身近に感じられて理解しやすく、素直に共感できるものがあります(スケートを続ける決心をした和馬が次々に就職を決める仲間たちを見て動揺する場面などは、気持ちがよく分かります)。

ストーリー展開も、クライマックスの全日本選手権で大波乱が起きるわけでもなく、それほどドラマチックではありませんが、それでも和馬の演技中の充実感や演技後の達成感がひしひしと伝わってきて、胸がじわりと熱くなります。

たとえ結果はどうであれ、“好きだから続ける”、“諦めないでやり遂げる”という若者の姿は、やっぱり貴いものですね。

その意味で最も印象的なのは、和馬に憧れる大学生スケーター・鍋島佳澄の存在です。彼女は大学に入ってからフィギアスケートを始め、4年かかってようやく1回転ジャンプが跳べるようになったというレベルですが、その演技は観客を魅了します。

たぶんスケートが好きで好きでたまらないという想いが観客の心を揺さぶるのでしょうね。その姿にスポーツのすばらしさやアマチュアスポーツの原点を見る思いがして、とても清々しい印象が残ります。

できればネクラな大学新聞の記者・将人の出番を抑えて、佳澄ちゃんをもっとグローズアップしてほしかったなあと思います。そこがちょっぴり残念です。