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🔵映画「彷徨える河」/(2015コロンビア,ベネズエラ,アルゼンチン)感想*異次元の映画体験!アマゾンの先住民の“失われゆく記憶”を描いた神秘の映画*レビュー4.2点

彷徨える河 [Blu-ray]

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【異次元の映画体験】

20世紀初頭と中盤にアマゾン奥地に足を踏み入れた二人の実在の白人探検家の手記をモチーフにして作られた映画。

言葉にするのはとても難しい映画です。ストーリーは比較的分かりやすいのですが、時間や記憶の捉え方にかなりの違いがあるようで……今だに幻影と混沌のアマゾン深部を彷徨っている感じが抜けません。

ただ、モノクロームで映し出されるアマゾンの大自然の神秘や、先住民の生き残りであるシャーマンの唯一無二の世界観には圧倒されます。

この映画を観なかったら決して知り得なかったであろう異次元の世界に触れられて、(朧気にしか理解できないながらも)納得の1本です。

【あらすじ】

アマゾン奥地のジャングルで、白人に滅ぼされた先住民の唯一の生き残りとして、たった一人で生き抜くカラマカテ。

ある日、カラマカテの呪術を頼りに、病に冒されたドイツ人民族学者が彼の元を訪れるが、彼は、治療法は幻の聖なる植物“ヤクルナ”しかないと言う。

そして、カラマカテと民族学者とその従者の3人は、ヤクルナを求めてアマゾンを遡上する旅に出る。

……それから数10年後、過去の記憶を失くしたカラマカテの元に、ヤクルナを求めてアメリカ人植物学者が訪れる。彼は、ドイツ人民族学者の遺した手記によって、ヤクルナの存在を知ったのだった。

カラマカテは、植物学者とともに再びヤクルナを探す旅に出る……。

【感想・レビュー】

シチュエーションは、ヴェルナー・ヘルツォークの「フィツカラルド」やF・コッポラの「地獄の黙示録」と似たところがありますが、主題は全く別物。

西洋的な“自然との戦い”を描いたものではなく、どちらかと言えば、G・ガルシア・マルケス(コロンビア出身のノーベル賞作家)の幻想と神秘、土着的信仰と神話的世界観を彷彿とさせる映画です。

この作品で描かれているのは、カラマカテの過去(ドイツ人民族学者との旅)と現在(アメリカ人植物学者との旅)。主題は、“失われゆく先住民の記憶”ということでしょうか。

カラマカテは、白人の侵略者に村を滅ぼされた苦い記憶から白人を毛嫌いしますが、先住民文化の最後の伝承者として、科学を操る白人に真の叡智を伝えることで自らの生きる意味を見出していきます。

カラマカテの素朴で簡潔な言葉は、物質文化に毒された人間にとって不思議と心を打つ響きがあって、それは宇宙の啓示のようでもあり、新たなビジョンを示唆してくれるもののようにも思えます。

石や風にも知恵があると信じるアニミズム的信仰、直線的ではなく螺旋状に流れる時間、死んだら精霊になるという死生観……先住民の叡智には、彼らの世界を理解することでわれわれの世界観もより豊かになるのではと思わせる説得力があって、まさにその点がこの映画の最大のメッセージではないかという気がします。

主題とは言えませんが、この映画では、白人による先住民への弾圧や搾取、キリスト教の強制やキリスト教のカルト化などの映像が淡々と流れます。物欲に駆られ、人や自然の在るべき形を破壊した西洋文明の狂気的一面に触れて、つくづくその罪の重さを実感します。

そして、長い遡上の果て、ヤクルナを探し当てたカラマカテは、森に姿を消します。この結末は、アメリカ人植物学者に全ての叡智を伝承したことを意味しているのだろうなと思いますが……どうでしょうか。

一度観た位ではとても太刀打ちできない奥の深い映画ですが、その驚愕の世界観と圧倒的な映像美に触れられただけでも、とりあえず良しとしたいと思います。