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🔴本「絹の変容」/篠田節子(集英社文庫)感想*グレゴール・ザムザも真っ青!悪夢のようなSFパニック小説*レビュー3.8点

絹の変容 (集英社文庫)

絹の変容 (集英社文庫)

【悪夢のようなSFパニック小説】

第3回小説すばる新人賞受賞作。

いやあ……芋虫って気色悪いですね。あの鮮やかな体色といい、ぷにゅぷにゅした感触といい、潰したときに飛び出す緑色や茶色の体液といい……あ〜、食欲が失せました。

この作品の主役は、バイオ・テクノロジーで巨大化した新種の蚕。1匹、2匹ならまだしも、街を覆い尽くすほどの大群ともなるとさすがに……悪夢です。

【あらすじ】

八王子の包帯工場の二代目社長・長谷康貴は、偶然、レーザーディスクのような輝きを放つ美しい絹織物を見付け、かつての家業であった織物業を復活させようと、その糸を吐く幻の野蚕を探し求める。

そして、ついに山梨の山中でそれらしき繭を発見した康貴は、バイオ・テクノロジーの研究者・有田芳乃の協力で、野蚕を繁殖させようとする。

芳乃が試みたのは、蚕の味覚中枢や細胞に手を加えて、新種の蚕を創り出すことだった。

やがて、芳乃の手によって大量増殖された新種の蚕から念願の絹織物の試作品ができ、康貴の事業も軌道に乗ったかに見えたのだが……。

【感想・レビュー】

新種(変種)の蚕の特徴は……

①長さ15cm、太さ親指程度、②肉食、③繁殖力が旺盛で、個体数は計測不能、④アレルギー体質の人間が噛まれたらたちまち死に至る、⑤殺虫剤は効かない、⑥逃げ足が速い、⑦踏み潰したら簡単に死ぬ……

まだまだありますが、気持ち悪いのでこのヘンで止めときます。

こんなモンスター級の蚕が、ガサガサゴソゴソ地面を覆い尽くしながら、後から後から街に押し寄せてくるんだから、もう完全にホラーの世界です。

しかも、幻の絹糸に取り憑かれた芳乃が遺伝子交配によって蚕の品種改良を重ねていく過程の描写にフィクションとは思えない科学的リアリティがあって、更に恐怖が倍加します。

恐怖がピークに達するのは、蚕が養鶏場の鶏を圧倒的な数の力で喰い殺す場面と、康貴と芳乃が5000匹もの巨大な蚕に駆除用の溶液を延々と注射する場面でしょうか。

鶏の肉を貪り、血を啜る蚕の姿や芳乃の掌からはみ出してグネグネとのたうち回る蚕の姿が目に見えるようで、想像力が働く分、そこいらのパニック映画より遥かにおぞましさを感じます。

一応?康貴と芳乃のロマンスも描かれていますが、これは余分だったかも。比較的短い小説なので、ちょっと欲張りすぎのような気がします。

パニックの収束も少々あっけなく感じます。怖いもの見たさの一読者としては“毒を喰らわば皿まで”、もっとモンスター蚕の暴走ぶりを見たかったという気もしますが(もっとも、度が過ぎると“モスラ”みたいになるのかも)。

とは言え、総じてコンパクトにまとまった、インパクトのあるパニック小説だと思います。

虫嫌いの人は読む気が失せたのでは?と少々心配です。