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🔴本「アルキメデスは手を汚さない」/小峰元(講談社文庫)感想*共感度50%の青春ミステリー*レビュー3.7点

アルキメデスは手を汚さない (講談社文庫)

アルキメデスは手を汚さない (講談社文庫)

【共感度は50%?】

私の学生時代にちょっとしたブームになった小説です。気にはなっていたのですが、当時は、流行り病みたいにロシア文学にかぶれていたので、手にするのがすっかり遅くなってしまいました。

私、この小説に登場する“アルキの会”の連中とほぼ同世代ということになりますが、結論から言うと、共感半分、非共感半分というところでしょうか。

時代の雰囲気は確かにこんな感じだったけれど、当時の若者はこれほど冷めてはいなかったし、短絡的でもなかったような気がします。

【あらすじ】

「アルキメデス」という不可解な言葉を残して絶命した女子高生・美雪。彼女が妊娠していたことから、両親は懸命に相手の男を探り出そうとする。

そんなとき、美雪のクラスメートの柳生が毒物入りの弁当を食べて病院へ担ぎ込まれる。

刑事の野村は、美雪の妊娠騒動との関連も視野に入れて毒殺未遂事件を調べるが、したたかな高校生グループ(アルキの会)にはぐらかされて、捜査はなかなか進展しない。

やがて、柳生の関係者が不可解な失踪を遂げる。

アルキメデスとは何を意味しているのか?毒殺未遂事件は誰が何のために仕組んだのか?柳生は失踪事件に絡んでいるのか?

野村は懸命に柳生の周辺を洗うのだが……。

【感想・レビュー】

推理小説としては、それほど凝ったトリックとか、鮮やかなどんでん返しが用意されているわけでもなく、少々物足りない気がしますが、青春小説としては、70年代の雰囲気がよく出ていて、なかなか面白い作品かと思います。

当時の若者たちは、無気力・無関心・無感動の三無主義を特徴とする“しらけ世代”と呼ばれていました。これも、マスコミや社会学者お得意のレッテル貼りではあるのですが、当事者としては、全く的外れでもないのかなという気もします。

ロッキード疑獄で政治不信はピークに達し、あさま山荘事件で学生運動(あるいは全共闘世代)に絶望し、オイルショックで就職難に遭遇し……と、若者の間に鬱々とした閉塞感が漂っていた時代で、他の世代と比べると、(学生運動や高度経済成長の波に乗り遅れたという)疎外感や厭世感が強かった世代ではあるんだろうと思います(当時、内向きな四畳半フォークが流行ったのも象徴的です)。

この作品の主題は、そんな“しらけ世代”の若者たちの友情と反抗です。

美雪のクラスメートの延命美由紀は全共闘世代の残滓のような教条主義者、田中はドライで合理的なリアリスト、柳生は屈折した三無主義者といったポジションで登場し、それぞれクール(非情)な友情で結ばれ、親世代に反抗します。

確かに当時、こういったタイプの若者をちらほら見かけたような気がしますが、少なくとも友人との距離感とか世代間の断絶はちょっと違うかなと感じます。

特に違和感があるのは、“世代間の断絶”です。大人が若者を押さえつけ、若者が大人に逆らうという構図はどの時代にも見られることで、何も当時の若者が特別反抗的だったとか反倫理的だったわけではなく、その意味で、延命や柳生の反抗は(小説的に見ても)あまりに短絡的でステレオタイプすぎる気がします。

とは言え、自分が大人になったからそんなふうに思えるのかもとか、若い頃読んでいればもっと共感できたのかも、なんて思ったりもします。

まあ、この作品を今の時代に読む意義は、70年代の空気感に触れることにあるんだろうなと思います。