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🔴本「ポトスライムの舟」/津村記久子(文春文庫)感想*がんばれ!働く女性たち*レビュー4.0点

ポトスライムの舟 (講談社文庫)

ポトスライムの舟 (講談社文庫)

【生きづらさに悩む女性たちへの応援メッセージ】

第140回芥川賞受賞の表題作外一篇を収録。

津村さんは、「とにかくうちに帰ります」 以来のファンです。

先日購入した「ポースケ」が「ポトスライムの舟」の後日譚だと知って、まずは「ポトスライムの舟」から、ということで……。

しかし、不思議な個性ですね。たぶんヒロインは津村さんのデフォルメだと思うのですが、フツーに見えて、とてもユニーク。

女性にとって生きづらい世の中を、不器用ながらも誠実に生きようとするヒロインに素直に共感します。

スポーツや音楽へのディープなこだわりも、“おぬし、やるな”って感じで、思わずニヤリとしてしまいます。

【あらすじ】

《ポトスライムの舟》

化粧品工場の生産ラインで働くナガセは、生活のため、友人が経営するカフェと老人向けパソコン教室のバイトも掛け持ちし、「時間を金で売る」虚しい日々を過ごしている。

そんなある日、ナガセは、工場で世界一周クルーズのポスターに目を止め、クルーズ料金が自分の年収とほぼ同額の163万円であることに気が付く。

自分の1年間の勤務時間を世界一周という行為に換金することもできる、と考えたナガセは、自分の生活に一石を投じるものが世界一周であるような気分になって、貯金をしようと固く決意するのだが……。

【感想・レビュー】 

併録の「十二月の窓辺」の後日譚が「ポトスライムの舟」ということになるんでしょうか。

「十二月の窓辺」は、理不尽なパワハラが描かれていて、息が詰まるような重苦しさがありますが、「ポトスライムの舟」はいいですね。停滞感や閉塞感の漂う状況にあってもクスッと笑えるユーモアがあって、心のわだかまりが吹っ切れた感じの爽やかなラストが印象的です。

「ポトスライムの舟」のヒロインのナガセは、真面目で頑張り屋、他人に誠実で友達にも気を遣う、一見、フツーのお嬢さんですが、自分の腕に“今がいちばんの働き盛り”という刺青を入れたいと願ったり、ポトスの調理方法を真剣に考えてみたりと、ちょっと変わった女性でもあります。

このヒロインの“フツー(自然体)なのにユニーク”という点がとても興味深いところで、そこが津村作品の特徴であり、魅力ではないかと思います。

ニュートラルな状態で思考を突き詰めていくと、ユニークな考えに辿り着くということなんでしょうか?ヒロインの意表を突いた発想がとても新鮮です。

津村作品は文体も魅力的ですね。大阪弁の効果もあってか、自由自在で生き生きとしてリズミカル。まるで呼吸しているような文章だと思います。

この作品、特に感動のドラマがあるわけでもなく、ナガセのささいな日常の小さな変化が淡々と綴られているだけなのですが、自分の無力を自覚しながらままならぬ現実と向かい合い、痛々しいほどの頑張りを見せるナガセの健気さに強く惹かれます。

その姿が悲惨でもあり、滑稽でもあるだけに、彼女に起きた小さな変化がわが事のように嬉しくて、結構じんわりきます。

ナガセと友人たちとの関係も居心地が良さそうでいいですね。その緩い繋がりにのほほんとした和やかさが感じられて、何だかほっこりします。