🔵映画「かくも長き不在」/(1960フランス)感想*美しい画像で甦った不朽の名作*レビュー4.5点
【美しい画像で甦った不朽の名作】
第16回カンヌ映画祭パルムドール受賞。
不朽の名作の初blu-ray化。ついにというか、やっとというか、ずっと待ち侘びていました。嬉しいです(ホントに「かくも長き不在」ですね)。
視聴してみて、その映像の解析度にびっくり。最新のデジタル技術って凄いですね。
60年近く前の古い名作をこんなに鮮明な画像で愉しめるなんて、ホントに贅沢な時代になったもんだと思います。
【あらすじ】
物語の舞台は、パリ祭が終わりヴァカンスの季節に入ったパリの街。
場末のカフェの女主人・テレーズは、閑散とした店頭の通りで行方不明の夫と瓜二つの浮浪者を見かける。夫は16年前ゲシュタポに連行されたきり音信不通になっていた。
浮浪者の後をつけ、それとなく気配を窺うテレーズだが、夫という確証は得られず、しかも浮浪者は記憶を失っていた。
テレーズは、叔母を証人として浮浪者と引き会わせるが、叔母は、目の色も背丈も違うと言う。
それでも、浮浪者を夫と信じるテレーズは、彼を店に招待し、オペラを聴かせ、食事をふるまい、ダンスを踊って幸せだった頃の記憶を呼び覚まそうとするのだが……。
【感想・レビュー】
戦争によって引き裂かれた夫婦の邂逅と再びの別離を描いたメロドラマ。
脚本は、「モデラート・カンタービレ」「愛人 ラマン」の小説家マルグリット・デュラス(手強い作家という印象があります)。デュラスらしい奥の深い濃密な心理ドラマです。
これは凄いですね。無駄がなく、必要十分の映像と台詞で、心の一番深いところに響いてくる映画です。
テレーズは、かつて一緒に暮らした仲なのに夫かどうかの確信が持てずに不安に苛まされます。一方、浮浪者は浮浪者で、過去の記憶を失っているはずなのに犬の吠える声やドアの閉まる音、狭い空間などにただならぬ恐怖の表情を浮かべます。この映画は、そうした過去に脅かされる男女の根源的な不安を実に見事に描き出しています。
印象的なのは、店のジュークボックスから流れるシャンソンに合わせて二人がワルツを踊る場面。踊るにつれ、浮浪者の表情が和らいでいき、一瞬、何かを思い出すのではと期待を抱かせますが、薄明かりの部屋の鏡に浮浪者の後姿が映し出されて……状況はたちまち暗転します。画の美しさが際立っているだけに運命の苛烈さ、残酷さを痛感する場面です。
そして、逃げるように店を飛び出した浮浪者と彼の名前を連呼しながら追いかけるテレーズの友人たちの場面。彼らの呼び声に反応した浮浪者の仕草が衝撃的で、これは映画史に残る名シーンかと思います。この作品が“戦争シーンのない戦争映画”と言われる所以もこのシーンを見ると納得です。
この作品はやはりモノクロが相応しいですね。閑散としたパリの空虚さ、セーヌを往き交うポンポン船の長閑さ、男と女の翳り、憂い、嘆き、悲しみ……モノクロだからこそ、これだけ陰影に富んだ画が撮れるんだろうと思います。
そして、アリダ・ヴァリ(テレーズ)の存在感。何かを訴えるような切羽詰まった眼差しが強く心に残ります。一見木偶の坊ふうで絶えず伏し目がちのジョルジュ・ウィルソンの演技も申し分なし。
これこそホンモノの映画。100年後も200年後も生き続ける普遍性を持った作品だと思います。