🔴本「青空のむこう」/アレックス・シアラー(求龍堂)感想*辛いことがあっても嫌なことがあっても、生きてることはすばらしい!*レビュー4.2点
【生きてるってすばらしい!】
名作「13ヶ月と13週と13日と満月の夜」のアレックス・シアラー作のファンタジー小説。
どんなに辛いことや嫌なことがあっても、人生は生きてるだけですばらしい……そんなシアラーのメッセージがひしひしと伝わってくる感動作です。
10代の皆さんにぜひ読んでもらいたい一冊(もちろん、少年・少女の心を持った大人たちにも!)。
【あらすじ】
自転車で買物に行く途中、トラックに轢かれて死んだ男の子・ハリー。死者の国で受付は済ませたものの、まだ“この世”にやり残したことがあって、死者が向かうべき「彼方の青い世界」(=“あの世”)へ旅立てないでいる。
ハリーのやり残したこととは、姉との仲直り。ハリーは姉と喧嘩した直後に交通事故に遭ったのだった。
ハリーは、150年前にハリーと同じ年で死んだアーサーという男の子の案内で、“この世”に幽霊として舞い戻る。
親友のビート、ちょっぴり好きだったオリビア、いつも喧嘩ばかりしていたジェリー……みんなは自分の死を悲しんでいるのだろうか?そして、パパとママとお姉ちゃんはどうしているのだろう?
複雑な想いを胸に、ハリーは学校と家を訪れる……。
【感想・レビュー】
ハリーの突然の死を通して、生と死の意味を問うファンタジー小説。
悲しくて切ないストーリーですが、ハリーの優しさとユーモアに救われ、新たな旅立ちの予感に希望を感じる物語でもあります。
前半の展開が少々まどろっこしいのが難点ですが、後半、ハリーが“この世”に舞い戻ってきてからの展開は印象的な名場面の連続。さすがシアラーさん!という感じです(金原さんの訳も冴えてます)。
特に、ハリーが天敵ジェリーの作文を読む場面やエギーと仲直りする場面は秀逸で、ハリーの孤独感とか諦観とか、悲しみを上回る充足感などが切々と胸に響いて、思わず涙が零れそうになります(エギーとの仲直りの場面は、本当に美しくて……なんだか映画「ゴースト」のラストシーンを思い出しました)。
脇役も全員魅力的です。お母さんの衣服のボタンだけを手掛かりに150年もお母さんを探し続けるアーサー、愛犬を探すため幽霊になって街灯にとりついたスタンさん、死者の国を彷徨い続ける「うぐっ」しか言えない原始人のウグ(彼は一体何を探しているのでしょう?)、みんな個性的で愛すべきキャラクターで、物語への愛着が一層強くなります。
この小説で最も興味深かったのは、シアラーの(東洋的)死生観です。何十年も前に観た映画(タイトルは忘れました)のラストで、主人公が、「自分が死んだら、灰は野原に撒いてほしい。その灰が肥やしになって花の一輪でも咲いてくれたら自分の死にも意味があると思えるから……」と呟くシーンがありました。この小説も、同じ死生観だと思います。
生命は循環する……そんなふうに思えたら、今自分が生きていることの意味をもっと広い視野でポジティブに捉えられそうな気がします。命の営みって、凄いものですね。