お気楽CINEMA&BOOK天国♪

お気楽CINEMA&BOOK天国♪

金はないけど暇はあるお気楽年金生活者による映画と本の紹介ブログ

🔴本「終わらない歌」/宮下奈都(実業之日本社文庫)感想*心に真っ直ぐに届く清潔な青春音楽小説*レビュー4.3点

終わらない歌 (実業之日本社文庫)

終わらない歌 (実業之日本社文庫)

【心に真っ直ぐに届く清潔な物語】

表紙のイラストがKawaiiですね。凛々しい玲ちゃんと天真爛漫な千夏ちゃん。まさに小説のイメージにぴったりです。

イラストだけでなく、作品自体も、前作の「よろこびの歌」に勝るとも劣らない秀作だと思います。

「羊と鋼の森」やこのシリーズ作品に共通して感じるのは“清潔感”。みずみずしくて、透明で、涼しげなイメージがあります。だから心が洗われたような気持ちになるんでしょうね。この作品も大好きです。

【あらすじ】

前作「よろこびの歌」から3年……合唱メンバーだった少女たちの成長の軌跡を描いた物語。

声楽を志し、音大へ進学した御木元玲は、自分の歌に価値を見出だせないでもがいている。ミュージカル女優を目指す原千夏は、自分の殻を破れずにオーディションになかなか受からない。

他の元メンバーたちも、各々葛藤を抱え、挫折を味わいながら、新たな転機を必死に模索している。

そんな頃、千夏が劇団の若手公演のヒロインに抜擢される。千夏の成功を手放しで喜ぶ玲。そんな玲に千夏が、“劇団の主宰者が歌い手を探している。自分と一緒に舞台に立って歌ってほしい”と懇願する。

千夏の唐突な頼みに戸惑う玲だったが、“歌いたい”という衝動を抑えきれない自分に気づいた玲は、オーディションを受ける決心をする……。

【感想・レビュー】

合唱メンバー(東條あや、中溝早希、佐々木ひかりら)のそれぞれの葛藤と成長を描くソロパートと、玲と千夏の新たなチャレンジを描くコーラスパートの全6篇で織り成す青春音楽小説。

あれから3年……清流に棲む若鮎のようだった合唱メンバーの少女たちも随分大人っぽくなって、前作のファンとしては、感無量の想いです。

それでもまだ3年……一人ひとりがようやく自分の足で歩き始めたばかりです。日々の様々な葛藤に自分を見失いそうになりながら、立ち止まったり、後ろを振り返ったり、同じ所をぐるぐる回ったりと、みんな手探りで紆余曲折の道のりを歩いています。

そんな彼女たちの支えは、高2の時に心を一つにして合唱した“麗しのマドンナ”(ぜひ前作を読んでみてください)。挫折を味わいながらも、決して前に進むことを諦めない彼女たちの真っ直ぐな気持ちに胸を打たれます。若い頃って、生きることに不器用である分、辛く苦しい思いをするものですが、だからこそ貴いのだと思います。

しかし、今回のラストは(これまでの作者のイメージとは違って)随分情熱的ですね。ザ・ブルーハーツの歌も、シミ一つない彼女たちの白さも、このトシになるとさすがに眩しすぎてテレ臭くもありますが、こうもストレートにパッションを見せられると、スカッとした気分の方が勝ります。きっと作者も、玲ちゃんや千夏ちゃんの勢いに押されて筆が伸びたんだろうと思います。

前作の一押しキャラの千夏ちゃんは相変わらずいい子だし、玲ちゃんもどんどんポジティブになってるし、もうそれだけで十分満足なのですが、今回はあやちゃんが大収穫。優しくて健気で思い遣りがあって……またしてもおとうさんはメロメロです。