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🔵映画「狼たちの午後」/(1975アメリカ)感想*狼の皮を被った“羊たちの午後”*レビュー4.1点

狼たちの午後 [Blu-ray]

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【狼ならぬ“羊たちの午後”】

「十二人の怒れる男」、「評決」で知られるシドニー・ルメット監督作品。

彼の作風は、骨太で硬派。スリリングでエネルギーがあって、考えさせられる作品が多いですね。

そのルメット監督とアル・パチーノのコンビ作だから、面白くないわけがない……ということで、懐かしのパチーノです。

しかし、若いですね。40年以上も前の作品だから当たり前といえば当たり前なんですが、若い頃から演技派。長く一線で活躍しているのも納得です。

ちなみに、パチーノ出演作のマイベストは、「ゴッドファーザー」でもなく「セント・オブ・ウーマン」でもなく、、、断然「インサイダー」。中年期のパチーノの男臭さに痺れます。

【あらすじ】

舞台はニューヨークのブルックリン。ある暑い日の午後、無計画に銀行に押し入ったソニーとサルは、カネを物色している間にたちまち警察に包囲され、籠城を余儀なくされてしまう。

人質は銀行の支店長と女性行員ら。破れかぶれのソニーと投降を促す警察との交渉にマスコミの報道は過熱。銀行周辺は黒山の人だかりとなって、ソニーを応援する者まで現れる。

じりじりとした消耗戦が続く中、徐々に女性行員らもソニーとサルへの恐怖心を解いていき、親しく言葉を交わすようになる。

やがて、ソニー、サル、女性行員らは、高飛び用の飛行機が待機している空港に向かうため、FBIが用意したバスに乗り込むのだが……。

【感想・レビュー】

1972年に実際に起こった事件をベースに描かれた社会派ドラマ。

マヌケな犯人によるマヌケな犯罪、そしてそれを興味本位で煽り立てるマスコミや野次馬たち……まさに“踊る阿呆に見る阿呆”状態です。

こんな筈じゃなかったとうろたえるソニーと周りが全く見えてないサルのズレた掛け合いはコントそのもの。人質の女性行員からも同情される始末で笑えます。

人は必死になればなるほどハタからは滑稽に見えるもの。たいして悪党でもない小心者が身の丈に合わない犯罪に手を出したら、なるほどこんな滑稽な絵になるんでしょうね。監督のリアリズムタッチの演出がこの作品のズレたユーモアをうまく引き出しているように感じます。 

実際、うだるような暑さの中での消耗戦や警察との駆引きは、リアリティがあって片時も目が離せません(このジリジリとした感じは「十二人の怒れる男」を思い出します)。一方、その渦中で、人質の女性行員たちが何気に家に電話したり、世間話に花を咲かせたりする光景が非日常の中の日常といった感じで、何ともシュールです。やっぱり“事実は小説より奇なり”ですね。

ソニーを支持するゲイ団体が警官でごった返す銀行前でデモをしたり、ソニーが外に姿を現す度に野次馬たちが熱狂して囃し立てたり……この作品は、既存の秩序が崩壊し、シュール、ナンセンス、ゲバ、サイケと、何でもアリだった当時の世相をうまく映し出しています。これが70年代の空気感。アンチヒーローの空虚な結末も、この混沌(カオス)の時代を象徴しているかのようです。

この映画、アル・パチーノはもちろん熱演ですが、もう一人の主役サル(ジョン・カザール)がいいですね。生きるか死ぬかの瀬戸際に健康に気を遣ったり、海外逃亡ならワイオミングがいいと言ってみたり……強面なのにとぼけた味が最高です。