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🔴本「十六夜荘ノート」/古内一絵(中公文庫)感想*満月が欠けはじめる十六夜の月に託した大伯母の想い*レビュー4.4点

十六夜荘ノート (中公文庫)

十六夜荘ノート (中公文庫)

【十六夜の月に託した想い】

古内さんは「フラダン」以来。「フラダン」も良かったけど、この作品はそれ以上の秀作。

作風は原田マハふう、作品は「小さいおうち(中島京子)」と「世界の果てのこどもたち(中脇初枝)」を足して2で割ったような感じでしょうか(褒めてます)。

この作品は、誰にとっても、今日の慰めとなるだけでなく、明日の糧となる一作だろうと思います。オススメです。

【あらすじ】

英国でこの世を去った大伯母の玉青から、都心の一等地にある十六夜荘を遺贈された雄哉。職を失ったばかりの雄哉は、迷わず話に飛び付くが、十六夜荘はひどく老朽化した資産価値のない洋館だった。

十六夜荘の居住者は男女4人。大伯母は彼らに赤字になるほどの安い賃料で部屋を提供していた。

なぜ大伯母は面識もない自分にそんな十六夜荘を遺したのか……当初は更地化しての売却を考えていた雄哉だったが、その疑問を解くために手がかりを探し始める。

やがて、雄哉は、十六夜荘の土地が大伯母と蔡宇煌という中国人の共有名義になっていることを知り、更に、華族の令嬢であった大伯母が親族から異端児扱いされていたこと、戦争で兄を亡くしたこと、戦時中若い画家たちと親交があったことなどを知る。

十六夜荘に込められた大伯母の想いとは……そして、遺産の本当の意味とは……。

【感想・レビュー】

雄哉が生きる現代のストーリーと玉青が生きる戦前・戦中・戦後のストーリーが交互に展開し、最後はそれぞれの想いが十六夜荘という古い洋館に収斂していく物語。

最初は、あまりに独善的で傲慢な雄哉に辟易しますが、玉青の真っ直な生き方や十六夜荘の住人のスローライフに感化され、少しづつ変わっていく様子に救われます。

彼のようなタイプには失職という挫折も天の配剤かもですね(自分が組織を回してるだなんて傲慢にもほどがあります。ヒラがいなくなろうがトップがいなくなろうが、代わりはいくらでもいる。悲しいけれど、それが組織の現実、逆説的にはそれが組織の健全な在り方です←元サラリーマンの呟き)。

それに引き換え、玉青の潔いこと。この作品の戦中、戦後の描写は本当にリアルです。戦争で怖いのは敵の攻撃よりむしろ味方による足の引っ張り合い(差別、偏見等による弾圧、誹謗中傷)ではないかという気さえします。弱い者同士助け合えばいいものを……人間ってなんて愚かな生き物なんでしょう。“戦争が悪い”なんて言葉は責任のすり替えもいいところだと思います。

そんな戦時下にあって、玉青や兄の一鶴、あるいは洋館に出入りしていた画学生たちは、自分の信じるものを守り抜こうとします。その真っ直ぐな心に素直に感動します。

平和な時代を生きる我々に求められるのは、玉青らの想いを引き継ぐこと、それに尽きると思います。

全ての謎が解け、玉青の想いが明らかになるラストは、鳥肌ものの感動です。なぜ十六夜なのか、その意味が分かったとき、時空を超えた想いが繋がった気がして、明日への希望が湧いてきます。

……こんな良作に巡り合うのが読書の醍醐味。良い本を読んだ後は、身の回りの風景がほんの1ミリずれて見える……誰かがそんなことを言っていた気がしますが、これはまさにそんな本だと思います。