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🔴本「災厄」/周木律(角川文庫)感想*未曾有の危機に立ち向かう人々の矜持を描いたパニックサスペンス*レビュー3.8点

災厄 (角川文庫)

災厄 (角川文庫)

【未曾有の危機に立ち向かう人々の矜持】

ストーリーが面白く展開もダイナミックで、一気に読ませるパニックサスペンス。

化学兵器や生物兵器がニュースの俎上に上るこの頃だけに、こういった未来もあり得るかも、という説得力を感じます。

ただ、本の背表紙の“超弩級のスケール感と押し寄せる恐怖!”という謳い文句は、ちょっと煽り過ぎのような気もしますが……。

 【あらすじ】

高知県の山奥の村々で、突然人や家畜が集団死する事件が相次ぐ。

原因が掴めないまま、“災厄”はまたたく間に拡大し、四国全土が壊滅の危機に瀕していた。

政府は、官邸に官房長官をトップとする対策本部を立ち上げて原因究明に乗り出すが、テロ説を主張する警察庁とウイルス感染説を主張する厚労省が激しく対立。大勢はテロ説に傾いていく。

それでも、ウイルス感染説を捨て切れない厚労省のキャリア官僚・斯波は、確かな証拠を掴むため、プロジェクトを率いて、死の島となった四国に乗り込むが……。

【感想・レビュー】

ストーリーの軸は、パンデミック(感染爆発)の原因究明と、政治家と官僚、官庁と官庁のせめぎ合い。その両者をうまく絡ませたことで、テンポの良い、ダイナミックな作品に仕上がっていると思います。

パンデミックの原因に関する推論は、生物化学の知見のない素人からしたら大変興味深いものがありますし、また、政官界のパワーゲームも(極端かもしれませんが)現実の一端を突いているような気がします。この小説の主題を“行政の危機管理の在り方を問うもの”と捉えると、なかなか良く出来た作品といえるかと思います。

ただ、良く出来ているとはいっても、いくつか不満は残ります。その一つは登場人物の人物造形(キャラクター)。

主人公の斯波が政敵と戦う姿は一見「半沢直樹」を彷彿とさせますが、斯波には半沢ほどの訴求力を感じません。その違いはたぶん戦う動機にあるような気がします。野心家で出世至上主義の斯波には、半沢のような“素朴な正義感”が感じられないのです。そこが読み手の共感を妨げているように感じます。その意味では、斯波のライバル・宮野(温厚誠実で学究肌)を主人公に据えた方がまだ良かったのではと思ったりもします。

斯波の上司・田崎の行動も、“官僚の鑑”という設定の割にはブレブレのような気がしますし、その他の登場人物についても、ステレオタイプな印象が否めません。

そして、もう一つの不満は、“今そこにある危機”の緊迫感や恐怖感が伝わってこないところです。四国全土が壊滅状態というのに、政府もマスコミも国民も、どこか悠長に構えていて、のほほんとした雰囲気さえ感じます。パンデミックものとしては、パニック感がないのもちょっと寂しい気がします。

結局のところ、ストーリーは面白いのに登場人物のキャラクターやパニック感の演出の面で損をしている作品かなと思います。

ちなみに……与党“民自党”と連立を組むのが“われらの党”、その“われらの党”から入閣しているのが無能極まりない党首(副官房長官)と厚労大臣という設定は、何かのブラックジョークでしょうか。

無能な人に国の舵取りを任せたらイザというとき甚だ危険。それがこの作品から得られた最大の教訓かもしれません。