お気楽CINEMA&BOOK天国♪

お気楽CINEMA&BOOK天国♪

金はないけど暇はあるお気楽年金生活者による映画と本の紹介ブログ

🔴本「致死量未満の殺人」/三沢陽一(ハヤカワ文庫JA)感想*凝った趣向と文学的表現が魅力の本格ミステリー*レビュー3.8点

致死量未満の殺人 (ハヤカワ文庫JA)

致死量未満の殺人 (ハヤカワ文庫JA)

【凝った趣向と文学的表現が魅力のミステリー】

第3回アガサ・クリスティー賞受賞作。

タイトルだけで、毒殺トリックと想像はつきますが、展開は想像以上に複雑。

精巧なディテールと二転、三転のドンデン返しでなかなか愉しませてくれる本格ミステリーです。

【あらすじ】

学生生活最後の休みを、師事する教授の山荘で過ごすことになったゼミ仲間の5人。

到着当日の夕食後、美貌の女子学生・弥生が何者かに毒殺される。

雪に閉ざされた状況下、考えられる容疑者は残る4人の学生たち。4人は自らの嫌疑を晴らすため、犯人探しを始めるが、誰もが弥生を殺めるのに十分な動機を持っていた……。

15年後、事件は未解決のまま時効の日を迎える。当時の容疑者の一人・龍太は、同じく容疑者だった花帆に、「弥生を殺したのは俺だよ」と告白するが……。

【感想・レビュー】

4人が4人とも動機は十分(……という設定なのですが、若干希薄?)。なので、物語の焦点は、“誰が、いつ、どんな方法で毒を盛ったか”ということになります。

外部からの侵入が考えられない密室状況下で、5人が同じ食事を摂り、同じ飲み物を飲んだはずなのに、犯人はどうやって弥生だけを殺害することができたのか……そこがこのミステリーのキモです。

確かにこのトリックは盲点ですね。よく出来ています。この“コロンブスの卵”的トリックを軸にストーリーはニ転、三転。最後の最後まで愉しませてくれます。最初に犯人役の龍太を登場させたのもミステリーのツボを心得た憎い演出だと思います。

そのトリックにも増して感心したのは、この作家の表現力。硬質で端正な文体はなかなか文学的で、作家としての確かな力量を感じます。文体の雰囲気としては、ミステリーよりむしろ純文学に向いているような気がするのですが。

作品の不満を挙げるとしたら、ややご都合主義なところ(ちょっと無理やり感があります)と、途中から先の展開やドンデン返しが何となく予想できるところでしょうか。特に最後のドンデン返しは、サービス過剰。伏線が不足しているせいで、今更それ言うの?って感じはします。まあ、それでも、クローズド・サークルものの醍醐味は十分味わえる作品かと思います。

大学生のサークル仲間、閉ざされた山荘といったシチュエーションの点で、「屍人荘の殺人」とよく似ていますが、こちらは本格ミステリー。本格ものがお好きな方には、こちらの方がオススメかも。