🔵映画「パピヨン」/(1973アメリカ)感想*自由を渇望するアウトローの執念の脱獄劇*レビュー4.1点
【アウトローの執念の脱獄劇】
スティーヴ・マックィーンは、やっぱりカッコいいですね。
やんちゃでどこか寂しげで、あくまで反体制のアウトロースタイル、豹のようなしなやかな身のこなしもクールです。
ハリウッド映画がつまらなくなったのは、スティーヴ・マックィーンやポール・ニューマンみたいな“男が惚れる男”がいなくなったからじゃあ?なんて思ったりもします。
彼らの全盛期を知る昔気質の一映画ファンとしては、正直、ブラピやディカプリオでは物足りなさを感じてしまいます。……年寄りの懐古趣味かもしれませんが。
【あらすじ】
身に覚えのない殺人の罪で南米ギアナのサン・ローラン刑務所に収監された(胸に蝶のタトゥを入れた)パピヨンと呼ばれる男。彼は密かに脱獄の機会を窺い、その資金を得るため、国債の偽造で大儲けしたドガという囚人に近づく。
パピヨンを信用したドガは、その資金力で看守を買収し、パピヨンの脱獄の手助けをするが、その計画が露見し、パピヨンは劣悪な環境の独居房に収監される。
長く厳しい独居房生活で生死の境を彷徨ったパピヨンだが、刑務所に戻ってからも、再び脱獄の機会を窺う。
そして、刑務所の音楽会の日、喧騒に紛れて、パピヨンとドガともう一人の囚人仲間は、何とか刑務所を脱出し、用意していたボートで海に漕ぎ出す。
目的地はホンジュラス。命懸けの漂流の後、ようやく陸地に漂着した3人だったが、偶然浜辺で現地の警官に出くわして、パピヨンは再び追われる身となる……。
【感想・レビュー】
パピヨンの自由へ渇望と、パピヨンとドガの友情を描いた脱獄ドラマ。
脱獄ドラマというとスリリングな脱獄劇を描いたアクションものを想像しがちですが、この作品は、(脱獄劇そのものより)パピヨンの脱獄への執念とか不屈の精神をメインに描いたヒューマンドラマです。
スケール感のある大作、しかもスティーヴ・マックィーンとダスティン・ホフマンの共演ということで、公開当時、かなり話題になったのを憶えています(当時貧乏学生だった私は名画座巡りが精一杯。観に行きたかったのですが……)。
この作品、151分と少し長尺ですが、凄惨極まりない独居房生活やパピヨンとドガの温かい交流などがきめ細やかに描かれ、サン・ローラン島を取り囲む紺碧の海やゴーギャンの絵を想わせる南海の楽園の映像も目に鮮やかで、ほとんど退屈することはありません。
中でも、通算7年に及ぶ独居房生活のインパクトは半端なしです。半年もの間(懲罰で)光の差さない真っ暗な部屋でムカデやゴキブリを食って飢えを凌ぎ……それでも心が折れないパピヨンの不屈の精神力に驚嘆します(確か原作は実話を基にした小説?)。
パピヨンとドガの友情にもグッときます。命を懸けてドガを守り通すパピヨンの男気、そんなパピヨンにあらゆる助力を惜しまないドガの真心。崖上での二人の抱擁シーンはこの作品の白眉だと思います。
それにしても、スティーヴ・マックィーンの鬼気迫る演技は見事。5年の独居房生活から解放されたときのパピヨンの老け様など、本当にそれだけの年月が経ったのかと錯覚させるほどリアルです。
「大脱走」の反骨精神、「華麗なる賭け」のダンディズム、「栄光のル・マン」の男気、「ゲッタウェイ」の危険な香り、そしてこの作品の不屈の精神……スティーヴ・マックィーンがアメリカで「キング・オブ・クール」と称賛されたのも十分納得。本当にアウトローがよく似合うカッコいい俳優だと改めて思います。
また、(スティーブ・マックィーンの動的な演技に対する)ダスティン・ホフマンの静的な演技も光っています。こういう受け身の役をやらせたらこの人の右に出る俳優はなかなかいないような気がします。
この作品、二大俳優の長所を引き出した、見応えのある映画だと思います。