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🔴本「舞う百日紅」・「雪華燃ゆ」/知野みさき(光文社時代小説文庫)感想*恋に仕事にひたむきに生きる女性を描いた上絵師・律の似面絵帖シリーズ第二弾、第三弾*レビュー4.3点

舞う百日紅: 上絵師 律の似面絵帖 (光文社時代小説文庫)

舞う百日紅: 上絵師 律の似面絵帖 (光文社時代小説文庫)

雪華燃ゆ: 上絵師 律の似面絵帖 (光文社時代小説文庫)

雪華燃ゆ: 上絵師 律の似面絵帖 (光文社時代小説文庫)

【恋に仕事にひたむきに】

 「上絵師 律の似面絵帖」シリーズ第一弾の「落ちぬ椿」のその後が気になって、第二弾の「舞う百日紅」に挑戦。

で、更にその後が気になって、第三弾の「雪華燃ゆ」まで一気読み……すっかりこのシリーズにハマってしまいました。

とにかく登場人物がみんな魅力的です(とりわけ健気でいじらしい律にメロメロ)。その上、絵の花鳥風月の意匠や四季の移ろいの描写が彩り豊かで風情があって、時代小説らしい情感もたっぷり。

ストーリーが捕物帖のスタイルなので、少々重たいエピソードも含まれていますが、登場人物の優しさに救われます。

女性ならたぶん共感度Max!オススメです。

【あらすじ】

《舞う百日紅》

父の跡を継いで上絵師として身を立てたい律だが、本業の注文は相変わらず巾着絵ばかり。その代わり副業の似面絵の注文は引きも切らずで、律の想いは複雑。その上、幼馴染みの涼太への想いは揺れ動くばかりで、悶々とした日々が続く。

そんなとき、律は母を殺めた辻斬りの似面絵そっくりの男に出くわす。母の無念を晴らしたい一心の律は、その男の素性を探り出そうとするが……。

《雪華燃ゆ》

ようやく涼太から想いを告げられた律だが、身分違いの結婚への不安や上絵師の仕事への愛着から、涼太への想いを打ち明けられないまま仕事に追われる日々が続く。

そんな中、律は、上絵師として初めて着物を手がけることに。粋人で名を馳せる雪永からの依頼ということで、律は、張り切って何枚もの下書きを描いて贈り先の女性・千恵に見せるが、千恵はどの下書きにも興味を示さない。千恵の庵を何度も訪ねるうち、律は千恵の複雑な過去に触れ、一層筆に想いを込めるようになる。

やがて着物が完成し、ついに涼太への想いを打ち明ける日が訪れる……。

【感想・レビュー】

一番気になっていたのは律と涼太の恋の成り行きですが、「舞う百日紅」まで大した進展はなし。律の幸せを切に願う一ファンとしては、もう、もどかしいやらじれったいやら。大体、700ページ過ぎても手も握らないだなんて、今ドキの感覚だとあり得ないですよね。

これが現代小説だと、このうじうじグダグダした展開に腹を立てて放り出してるところですが、この小説だと、それがかえって古風で奥ゆかしく思えるから不思議。そんなところがまた、時代小説の魅力なんでしょうね。

思うに、現代作家があえて時代小説に挑むのは、今の日本人が失いつつあるものを再生したいという想いからのような気がします。

律の慎ましさとか、涼太の純情とか、市井の人びとの礼節とか隣人愛とか、あるいは、四季の移ろいとか、花鳥風月の風情とか……それらに美や善を見い出し、共感を覚えるのは、日本人のDNAの名残りなのかもしれませんね。

この小説の魅力は、(今の日本人が失いつつある)美徳や日本人的感性が情緒豊かに再現されているところにあると思います。

とはいえ、いつまでもうじうじグダグダでは話が先に進まないので、「雪華燃ゆ」でようやく二人の仲が進展します(やったね!)。とりあえず胸を撫で下ろしましたが、このシリーズに続編が用意されているとしたら、たぶんもう一波乱、二波乱はありそうな気がします。仲人気分のおじさんとしては、まだまだ油断できません。

この作品のもう一つの魅力は、律の人間的成長でしょうか。律は絶えず、仕事と恋愛の両立に悩んでいますが、この問題は、彼女の古典的メンタリティとは裏腹に、今に通じるテーマでもあります。

“独りでいるのは不安だけど、愛のない結婚は嫌”、“結婚は無理でも、子どもはほしい”、 “結婚はしたいけど、仕事は辞めたくない”……といった律の悩みは、そのまま今の独身女性が抱える悩みでもあるかと思います。

そこを律がどう乗り越えて、どう成長していくのか、その軌跡を追い、結末を見届けるのが、このシリーズの読者の醍醐味だろうと思います。悩んだり傷ついたりしながらも、恋に仕事にひたむきに生きる律の姿に励まされ、勇気づけられる女性読者は少なくないような気がします。

ちなみに……「舞う百日紅」でも「雪華燃ゆ」でも、キャストの顔ぶれは第一弾の「落ちぬ椿」とほとんど変わりませんが、ここにきて、律の取引先の店主である類の存在感が際立っています。で、ここ二作では、口は悪いがきっぷが良くて情に脆い類姐さんにゾッコンです(律ちゃん、すまねぇ)。