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🔴本「風の市兵衛」/辻堂魁(祥伝社文庫)感想*カッコよすぎるニューヒーロー、“風の市兵”衛見参!*レビュー4.4点

風の市兵衛 (祥伝社文庫)

風の市兵衛 (祥伝社文庫)

【時代小説の魅力全開、“風の市兵衛”

見参!】

最近は、“ただ面白い本を読みたい”という単純な欲求だけで読書を続けていますが、この作品は大当たり。とにかくストーリーがよく出来ていて、キャラクターも魅力的。抜群に面白い時代小説だと思います。

このストーリー、何かに似ていると思ったら、映画『シェーン』でした。唐津市兵衛は和製シェーンってトコですかね。どこからともなく現れて、弱きを助け強きをくじき、そして静かに去っていく……うーん、たまらんです。

【あらすじ】

江戸、神田川の柳原堤下で武家の男女の心中死体が発見される。死体の身元は旗本の高松道久と、同じく旗本の中山家の内儀・絵梨。武家にあるまじき不祥事によって窮地に陥った道久の妻・安曇は、家財を管理し、家計をやりくりするための渡り用人を雇う。

雇われたのは、さすらいの算盤侍・唐木市兵衛。安曇や幼い遺児・頼之は、町人でもない市兵衛が算盤片手に家財を調べる姿に驚くが、次第にその飄々とした人柄や類稀な能力に惹かれ、信頼を寄せていく。

やがて、高松家の出納帳や道久の日記にいくつか不審な点があることに気付いた市兵衛は、心中事件そのものに疑問を抱くようになり、事件の真相を追うが、市兵衛がその核心に迫るにつれ、周囲に不穏な影がちらつき始める……。

【感想・レビュー】

とにかく登場人物のキャラクターが魅力的です。特に主人公の市兵衛。情に厚く、頭がキレて、しかも、めっぽう腕が立つという非の打ち所のないヒーローです。風のように飄々とした生き方がカッコよくて、昔、ヤンチャしてたなんて話が出ると、なおさら痺れます。

また、オッサン読者としては、美しい未亡人・安曇にも惹かれます。古い!と言われるかもしれませんが、女性が一番美しいのは、“じっと何かに耐えている姿”だと思います。世間の誹謗中傷に耐え、市兵衛への想いを胸の奥に封印するその誇り高く慎ましい振る舞いに何とも言えずグッときます。

そして、健気な少年・頼之。これは反則ですね。小さくとも武士の子。その真っ直ぐで汚れのない想いに思わず目頭が熱くなります。

もう一つの魅力は、手に汗握る剣戟の場面でしょうか。“風の剣”の使い手・市兵衛の一迅の風を思わせる凄絶な剣技に魅せられます。柳屋での鬼神のような大立ち回り、中国剣法を操る三人娘との死闘などの場面は、否応なく心が昂って、ああ、やっぱり時代小説って面白なあと心底思います。

……これは剣豪小説の痛快感と人情小説の温かさを併せ持った、エンターテインメント性の高い傑作時代小説。一抹の寂しさが滲むラストも、しみじみとした余韻が心に残って文句なしです。単純に面白い小説が読みたいと思っている方にぜひオススメしたい一冊。