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🔴本「プロパガンダゲーム」/根本聡一郎(双葉文庫)感想*驕るなマスメディア!ネット世代の爽快な反乱*レビュー3.9点

プロパガンダゲーム (双葉文庫)

プロパガンダゲーム (双葉文庫)

【驕るなマスメディア!】

“偏向報道”、“情報操作”、“フェイクニュース”などの言葉を最近よく見かけるようになりました。

本当のところは、どうなんでしょうか?まあ、そもそも“事実”と“事実の評価”がグチャグチャになってるから、その見極めが難しいんだろうとは思いますが。

しかし、最近の報道を見ていると、確かに(“事実の評価”のレベルで何らかの忖度が働いて)恣意的な操作が行われてるんじゃないかと疑われる例も少なくないように感じます(“事実”そのものの操作もあり得るだろうし、不都合な“事実”ならハナから報道しないという手段もありそうです)。

この小説は、そうした今のマスメディア等の在り方に一石を投じる、タイムリーな作品だと思います。

【あらすじ】

大手広告代理店の就職試験に勝ち残り、ようやく最終選考に漕ぎ着けた8人の大学生。彼らに課せられた最後の課題は、宣伝によって仮想国家の国民を戦争に導けるか、それとも戦争を阻止できるかを競うプロパガンダゲームだった。政府グループ4人とレジスタンスグループ4人に分けられた大学生は、100人のネットユーザーの過半数の支持を得るべく、火花散る論戦を開始する。

……果たして勝敗の行方は?そして、この奇妙な課題の真の狙いは?

【感想・レビュー】

作品に登場する大学とか会社の名称が直ぐに頭に浮かぶのはご愛嬌ですが、「戦争か平和か」の論戦の前提が、“隣国との間にある小さな島の領有権を巡る紛争”と仮定されている点がリアルで、何だか薄ら寒いものを感じます。島の周辺海域に石油が埋蔵されている事実が公になったとたんに隣国が領有権を主張し始めたという政府グループの主張も、現実そのまんまという感じですね。

プロパガンダゲームの論戦も、そうした現実の下地が頭にあるためか、なかなか真に迫って面白いのですが、個人的には論戦の行方よりむしろ、彼らが駆使する“情報素材”と呼ばれるアイテムの方に興味を引かれます。

彼らはそれぞれ情報素材(自陣を有利にするための断片的な情報)を使って、自らの主張を根拠付け、相手の主張を否定します。問題は、その情報素材の真偽が定かでないこと。彼らは自分たちに有利な世論を形成するために情報操作(印象操作)をしているわけです。今、マスメディアは彼らと同じことをしているのではないか……それが作者の問題意識かと思います。

本来は、“客観的な事実の報道”がマスメディアの使命なのでしょうが、そもそも主観的な人の目を通して事実を把握する以上、客観的な報道などあり得ないし、広告代理店やスポンサーの意向が排除できない現状では、何をか言わんやです。

せめてマスメディアには、(公共の電波を使ってる以上)できるだけ客観的な事実を淡々と伝え、その事実の評価はしない(評価は国民に任せる)というスタンスで臨んでほしいと思うのですが……まあ、無理な相談でしょうね(彼らに見え隠れする“お上を正し、大衆を導く”という上から目線。もう少し謙虚になってほしいものです)。日本の公共放送にしても、“TVがあれば受信契約は義務”という理屈がそもそも理解不能です(いっそのこと受信料を税金扱いにして国営放送にした方が、まだ筋は通ると思います……是非は別として)。義務化の論拠として知る権利を挙げるのなら、知りたくない権利はどうしてくれるの?と思ったりもして、フラストレーションが溜まる一方です。

……年寄りのつまらない戯言なので、小説に話を戻しましょう。この作品、アイデアや狙いが斬新で、なるほどと思うところも少なくないのですが、序盤・中盤がせっかくリアリティのある緊迫した展開なのに、ラストが理想論に走って失速している点が惜しいところかなと思います。登場人物も個性があまり感じられず、やっぱりこのボリュームで8人という設定は無理があるような気がします。