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🔴本「オンブレ」/エルモア・レナード(新潮文庫)感想*ワイルドでクール、孤高のオンブレに痺れっ放し!*レビュー4.2点

オンブレ (新潮文庫)

オンブレ (新潮文庫)

【ワイルドでクール、孤高のオンブレ】

村上春樹訳の西部(ウエスタン)小説。

表題作の「オンブレ」は「太陽の中の対決/1967ポール・ニューマン主演」、併録の「三時十分発ユマ行き」は「決断の3時10分/1957グレン・フォード主演」及び「3時10分、決断のとき/2007ラッセル・クロウ主演」のタイトルで、それぞれ映画化。

観た映画は「3時10分、決断のとき」だけですが、ラッセル・クロウとクリスチャン・ベールがカッコよかったですね。互いにリスペクトし合う男の友情に惚れぼれしました。

しかし、この映画の原作がこんな超短編だったなんて……(わずか30ページ!)。骨格(原作)がしっかりしているからこそ、あれだけ肉付けすることができたんでしょうね。「オンブレ」に負けず劣らず、この短編も名作だと思います。

【あらすじ】

表題作の「オンブレ」も併録の「三時十分発ユマ行き」も、どちらもひりひりする緊張感が売りの痛快なウエスタン小説。 

〈オンブレ〉

鉄道の発達により駅馬車がまさに廃止される寸前の西部アリゾナ。最後の駅馬車に乗り込んだのはいわくありげな7人の男女。その駅馬車が強盗団に襲われる。強盗団の狙いは乗客の一人、インディアン管理官・フェイヴァーが在任中に溜め込んだ1万2000ドルの不正蓄財だった。金は襲撃によって一時強盗団に奪われるが、乗客の一人、オンブレ(「男」という意味)の異名を持つジョン・ラッセルによって奪還される。命を繋ぐ水が尽きようかとする中、灼熱の荒野でラッセルと悪党たちの死闘の火蓋が切って落とされる……。 

【感想・レビュー】

浅黒い顔に淡いブルーの瞳、幼少期をアパッチに育てられたという伝説の男、ジョン・ラッセル。寡黙でクール、どこまでも自分の筋を通して静かに死地に赴く姿が問答無用にカッコよくて……痺れました。他人に関心を示さないラッセルの行動は、今風に言えば、“マイペース”にも映るのですが、彼の流儀には哲学があり、徹底した自己管理があります。そこがフツーのマイペースと違うところかと思います。

そういえば……日本にも似たようなキャラクターがいましたね。笹沢佐保の「木枯し紋次郎」(股旅物の時代小説です)。寡黙でクールなところや、“あっしには関わりのないことでござんす“というスタイルがそっくりです(違いは、ラッセルが紋次郎ほどニヒリストではないという点でしょうか)。

「オンブレ」の良さは、主人公が自らを語らないところ、くどくど説明しないところかと思います。ラッセルは行動するのみ。彼の人物像は、主に周りの何人かの登場人物によって語られます。そうした(描写の)手法は、単にハードボイルド感の演出に効果的というだけでなく、彼の人間性をより際立たせ、その神秘性や伝説的側面を増幅させるという意味でも非常に効果的だと思われます。逆にそれだけに、人質救出に向かう際の彼の(内心を告白するような)一言ひとことが強く心を揺さぶります。

ストーリーとしては、善玉は善玉らしく、悪漢は悪漢らしく、それぞれの流儀で生き、そして死んでいくところが、いかにもアメリカ的、ウエスタン(西部劇)的で、その潔さがこの作品の痛快さを生んでいるように思います。また、白人の傲慢さを描くことで先住民族であるアパッチに一定の敬意を示しているところも好感が持てます。

併録の「三時十分発ユマ行き」も、緊張感漲る、短編のお手本のような作品です。個人的には、こちらを推したい気もします。