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🔴本「雪には雪のなりたい白さがある」/瀬那和章(創元推理文庫)感想*優しさよりも切なさが勝る、ほろ苦い短編集*レビュー4.0点

雪には雪のなりたい白さがある (創元推理文庫)

雪には雪のなりたい白さがある (創元推理文庫)

【孤独に向き合うということ、人と繋がるということ】

洒落たタイトルに惹かれて読んでみました。公園を舞台にした、優しくて切ない全五話の物語。登場する公園は、港の見える丘公園(第一話)、あけぼの子どもの森公園(第二話)、石神井公園(第三話)、所沢航空記念公園(第四話、第五話)。

どの公園も遠すぎて、とても行けそうもありませんが、近くに住んでる人なら、ぶらりと出かけて、ベンチでこの本を読むというのも一興かもしれませんね。

【あらすじ】

全五話のうち、好みは第一話の「雨上がりに傘を差すように」と第三話の「メタセコイアを探してください」。

〈第一話「雨上がりに傘を差すように」〉

憧れの街・横浜の大学に進学し、念願の一人暮らしを始めた果歩。しかし、都会的で綺麗な周りの女性たちに圧倒された果歩は、田舎育ちのコンプレックスからうまく周りに溶け込めず、どんどん孤独を深めていく。そんなある日、雨降りの「港の見える丘公園」で、果歩は源次郎と名乗る老人に傘を貸し、言葉を交わす。雨の日だけ源次郎が公園に現れることを知った果歩は、それから雨になるといつも公園を訪れ、源次郎に自分の悩みを打ち明ける。源次郎の率直な言葉に少しずつ自信を取り戻していく果歩。しかし、ある日、些細なことから源次郎と仲違いして……。

〈第三話「メタセコイアを探してください」〉

バードウォッチングしか興味のない孤独な少年・葉助を救ったのは、石神井公園で出会った年上の女性・相沢ミアの言葉。“君は変わっちゃだめだ。そのままでいろ。ずっと孤独でいろ。孤独は人を強くする”。葉助は、高校生になっても孤独のままだったが、その言葉と、その後人気シンガーになったミアの歌に支えられ、石神井公園に通い詰める日々。ある日、葉助は公園でミアと再会する。長年の想いを伝えたい葉助だが、なかなかきっかけを掴めない。そんな彼の前に突然現れたのは、“秋の妖精”と名乗る少女・理子。理子は葉助の願いを叶えるため、不思議な呪文を唱え始める……。

【感想・レビュー】

第一話の主人公・果歩のコンプレックスや孤立感は、(かつて自分も若い頃があったので)何となく分かる気はしますが、それにしてもイジイジ、ウジウジしすぎかなあと思います。実際、こんな女の子にアドバイスを求められたら、(最初は嬉しいだろうけどw)だんだん面倒臭くなるかも。しかし、源次郎さんは、さすがに年の功ですね。「自分が思っているほど、他人は自分に関心を持っていない(だから人目を気にするな)」という趣旨の発言は、全く同感です。たぶん彼女には私も同じアドバイスするだろうと思います。

一番感心したのは、「たいがいの年寄りは、人生を悟ったふりをしているだけだ。(すらすらと言葉が出てくるのも)技術であって、心の成長ではない。若者と年寄りで、一つだけ差があるのは、どれだけたくさんの後悔をしているか、それだけだよ」という言葉。これは真実を突いていますね。トシを取れば、そのとおりと実感します(“共感ボタン”があったら何度でも押したいところです)。この一言で、“この作家、侮れないな”と思いました。

第三話は、秋の妖精・理子ちゃんの存在感が光ってますね。孤独を全肯定する葉助の考え方には違和感を覚えますが、そんな葉助に、人と繋がる喜びを伝えてあげた理子ちゃんは、まさに妖精そのもの。私の理想の孫娘像です。

ちなみに、第二話(「体温計は嘘をつかない」)は、男がダメダメすぎるところ、第四話(「雪には雪のなりたい白さがある」)、第五話(「あの日みた大空を忘れない」)は、若い割には過去に囚われすぎのところがイマイチ共感できず……ということで(どれも水準はクリアしていると思うのですが)。

全編、優しくて切ない物語ですが、優しさより切なさが勝る、ほろ苦い小説です。所々にハッとするような言葉がちりばめられているので、若い人には(その言葉に触れるだけでも)一読の価値はある小説かと思います。