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🔵映画「極北のナヌーク」/(1922アメリカ)感想*勝手に世界映画遺産に認定!100年前のイヌイットの暮らし*レビュー4.4点

極北のナヌーク(極北の怪異) ロバート・フラハティ [Blu-ray]

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【日本人とそっくりなイヌイット】

イヌイット(エスキモーの最大部族)って見た目が日本人とそっくりですね(穏やかそうなイメージも)。人種は同じモンゴロイドとか。それだけに余計ナヌーク一家にシンパシーを感じます。

この映画の撮影時からほぼ100年。ナヌークの子孫たちが今どんな暮らしをしているのか興味を引かれます。たぶん地球温暖化や物質文明の影響で彼らの生活様式もかなり変わったんでしょうね。

極寒の不毛の地で生きる人たちに対して、“変わらないで”と願うのは傲慢なのかもしれませんが、自然と同化したその素朴な生き方だけは変わってほしくないなあと思うのですが……。

【感想・レビュー】

ハドソン湾に面したアンガヴァ半島北部に暮らすイヌイットのナヌーク一家の生活の様子をフィルムに収めた、貴重なドキュメンタリー映画。

多少脚色が交じっているので、正確にはドキュメンタリーとはいえない、という説もあるようですが、だからといってこの映画の価値が損なわれるとは思いません。なぜならここには、衣食住や家族といった人間の営みの原点が映し出されているからです。

ここでは生きることが全て。毛皮を剥いで身に纏い、かまくら(みたいな家)を作って寒さを凌ぎ、動物や魚を捕まえて胃袋を満たすというイヌイットのシンプルそのものの生活は、生きがいだとかライフワークだとか、何かと人生の意味を問いたがるわれわれ現代人にとって、新鮮であり衝撃でもあります。

たとえ原始的、非文明的な生活であっても、大自然の中では、ナヌークは知恵と勇気を備えた偉大な勇者です。妻子に向けるナヌークの穏やかな眼差しや彼に寄り添う妻子の満ち足りた笑顔を見ていると、“幸せ”の原点に触れたような気がして、温かい気持ちになります。

それにしても、彼らの生活は過酷そのもの。特に猟は壮絶です。巨大なセイウチやアザラシにモリを打ち込み、数人がかりで海から引き上げ、その場で解体して即、生肉を口に放り込むという荒々しさ。ここでは、生きるために食うという“食”の原点を見る思いがします(エスキモーという言葉は「生肉を食べる人」という意味だそうです。確か白人が使う蔑称とか……)。また、かまくら(家)作りも興味を唆られます。内部に光を取り込むために氷を切り出して壁に嵌め込む技法など、まさに生きる知恵ですね(かまくらで毛皮に包まって、なんと裸で眠ります!観ていてブルブルです)。

映画の字幕の説明によると、ナヌークはこの撮影の2年後に餓死したとか。本当に死と隣り合わせの世界なんですね。既に遠い過去の事ですが、フィルムに映った妻や子どもたちの笑顔を見ていると、一家のその後の苦労が偲ばれて、胸が痛みます。……ただ、撮影当時、ヨーロッパでは第一次世界大戦の真っ只中。兵器で無慈悲に殺されるよりは自然の掟に敗れて死んでいく方がまだ人間的なような気がします。