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🔴本「隣の女」/向田邦子(新潮文庫)感想*酸いも甘いも噛み分けた、いぶし銀のような短編集*レビュー3.7点

新装版 隣りの女 (文春文庫)

新装版 隣りの女 (文春文庫)

【女性の本質を突いたほろ苦い小説】

うーん、渋いですね。“酸いも甘いもの噛み分けた”という表現がピッタリの、いぶし銀のような短編集だと思います。

この小説、女性の描き方がエグいです。そこに一番感心します。……好みかどうかは別として。

【あらすじ】

隣に住む水商売の女に煽られて、生涯ただ一度の恋に憧れる平凡な主婦(「隣の女」)、一人の若い男の出現で、俄に色めき立つ女系家族の面々(「春が来た」)、貧相な出前持ちから突然弟と名乗られ、戸惑いを隠せない中年男(「下駄」)など、ごく平凡な人々の人生の哀歓を綴った5篇を収録した短編集。

【感想・レビュー】

どれも昭和の空気感が色濃く漂うビターなホームドラマです。しかし、不思議と古臭さは感じません。血の繋がりゆえの有難味や鬱陶しさは時代に左右されないということなんでしょうね。向田作品が廃れないのは、たぶんそのあたりに理由があるような気がします。

この小説は、決してきれい事で済まされない家族(又は男女)の関係が、ときに身も蓋もないほどリアルに描かれて、少々気分が凹むところもありますが、一方で、確かに夫婦や家族なんて実際こんなものかも、と素直に納得するところもあります。

この作家、女性の描き方が本当にうまいですね。彼女の作品に説得力を感じるのはたぶんそこに理由があるような気がします。一見平凡そうに見える女性たちが、彼女の手にかかると、素の部分が露になって、生身の女が見えてきます(……容赦ないというか、エグいというか)。そこを不快と感じるか、愛おしいと感じるかで、この小説の評価も変わってくるんだろうと思います。

……それに引き換え、男の登場人物はみんないい加減でマヌケな奴ばかり。思わず笑ってしまいますが、この作家、男に何か恨みでもあるんでしょうか(それとも逆に可愛くてしょうがないんでしょうか)。

人生、悲喜こもごもで、どちらかといえば、喜びよりも悲しみの方が多いのが人生の常。それならそれで前を向いた方がまだマシだよね、といった諦観に似た救いが感じられる短編集かなと思います。