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🔴本「夏の祈りは」/須賀しのぶ(新潮文庫)感想*深いところを突いた、考えさせられる野球小説*レビュー4.1点

夏の祈りは (新潮文庫)

夏の祈りは (新潮文庫)

【生真面目さがウリの野球小説】

 「本の雑誌が選ぶ2017年度文庫ベストテン」1位、「オリジナル文庫大賞」大賞の2冠に輝く、高校野球をテーマにした青春小説。

賞に相応しい作品かどうかは別として(選考基準がよく分からない)、野球ファンにとっては嬉しい小説でしょうし、野球に興味がない人にとってもフツーに良い小説かと思います。

【あらすじ】

文武両道の県立北園高校で悲願の甲子園出場を目指す、昭和63年から平成29年にかけての歴代野球部員たちの熱い想いを描いた全五話の連作短編集。

第一話「敗れた君に届いたもの」

昭和63年、悲願の甲子園出場まであと2つと迫った北園高校野球部。キャプテン香山は、OBらの熱い期待に応えるべく必勝を期して格下の溝口高校との準決勝に臨むが……。

第二話「二人のエース」

平成10年、エース葛巻と豪腕宝迫を擁する北園高校野球部。葛巻は受験と野球の両立に苦しみ、調子を落としていくが、宝迫は受験を犠牲にして野球に打ち込み、実質的なエースへと成長していく……。

第三話「マネージャー」

平成20年、大の野球好きが高じて北園高校野球部のマネージャーになった美音と奈乃香。二人は裏方として必死にハードワークをこなしているが、その苦労を知る者は少ない。一方、鳴り物入りで入部した相馬は、レギュラーよりマネージャーになりたいと言う……。

第四話「ハズレ」

平成28年、戦力層が厚くOBらの覚えもめでたい3年生と1年生。そして、その間に挟まれ「ハズレ」と揶揄される2年生。ハズレ世代の新キャプテン大祐は、汚名返上のため、部員の意識改革を図り、自らも猛練習に明け暮れる……。

第五話「悲願」

平成29年、大祐の最後の夏。泥臭く一戦一戦必死に戦う北園高校野球部は、「逆転の北園」と呼ばれ、旋風を巻き起こす。そして、ついに悲願の甲子園出場まであと一勝と迫る……。

【感想・レビュー】

第一話、第二話は、リアリティは十分ですが、小説というより高校野球のルポを読んでる感じがして、正直、あまり面白くありません。“あらら、これがランキング1位?”と失望しかけたのですが、第三話以降は(小説らしくなって)結構面白くなります。

第四話、第五話のハズレ世代の逆襲ストーリーは、一見予定調和的にも見えますが、ごくフツーの高校球児の日々の地道な練習やチーム内の様々な葛藤を丹念に追っているため、一戦毎に強くなっていくチームの姿にリアリティがあって、彼らの活躍に素直に感動します。スポーツ小説にありがちな“わざとらしさ”がないところがこの小説の長所かと思います。

それにも増して素晴らしいのが、第三話「マネージャー」。退部に追い込まれた奈乃香の無念や美音の報われぬ奉仕活動を通して、裏方の貴い想いに気付かされ、更には、高校野球における女性差別や高野連の古い体質などの問題点にも気付かされます。

正直、野球嫌いで、夏の甲子園の熱狂振りには毎年辟易している私ですが(「人が何かに打ち込んでいる姿は、どんな場面でも美しい」という思いがあるので、高校野球だけをとりたてて純粋なもののように讃える風潮にウンザリしているのです……ヘソ曲がりですが)、この小説にあまり抵抗を感じないのは、野球部員一人一人の内面を深く掘り下げて、“若さの意味”や“若さの可能性”に真面目に迫っているからだろうと思います。

……かといって、これで野球好きになる訳でもないのですが。全編を通して、OBの冨田という野球部愛の権化のような爺様が登場しますが、このキャラがどうにも好きになれません。若者の成長を陰で見守るのが年寄りの役目。引き際をわきまえない年寄りほど見苦しいものはないと思います。そもそも、こういうOBが幅を利かす体育会系特有の上下関係や身内意識が胡散臭くはあるのですが……。