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🔴本「透明カメレオン」/道尾秀介(角川文庫)感想*うーん。イマイチ乗れない感涙⁉小説*レビュー3.7点

透明カメレオン (角川文庫)

透明カメレオン (角川文庫)

【ちょっと苦手なタイプの主人公】

確か、数年前「王様のブランチ」で特集が組まれた作品だったような……。ちょっと苦手意識のある道尾作品ですが、ブランチ推薦ということで読んでみました。

結果は……「フツーかな」という印象。“感涙必至のエンタメ小説”という謳い文句は少しオーバーかなと思います。

【あらすじ】

声は抜群、顔はイマイチのラジオ番組のパーソナリティ、恭太郎は、行きつけのバー「if」の常連メンバーの話を面白可笑しく語ってリスナーの人気を博している。

ある大雨の夜、突然「if」に飛び込んできたびしょ濡れの美女、恵に一目で心を奪われた恭太郎は、一計を案じて彼女の気を惹こうとするが、あえなく計略がバレて、逆に常連メンバー共々、彼女の「殺人計画」を手伝わされることに。 

意味不明の指示に戸惑いながらも、彼女の身上に共感した恭太郎らは、次第に計画に積極的に関わってゆく……。

【感想・レビュー】

この作品のメッセージは“人間の弱さの肯定”でしょうか。「大事なのは過去より今、弱さゆえ辛い過去を振り切れないのなら、嘘の力を借りたっていいじゃないか」というメッセージを、目に見えない“カメレオン”や“電波”といったモチーフを使ってうまく表現しているなあと感じます。

ただ、小説としてはよく出来ているのかもしれませんが、個人的には、あまり愛着が持てない作品です。期待しすぎたのか、トシのせいで感性が麻痺してるのか、それとも作風が好みでないのか……なんだかよく分かりませんが、はっきり言えるのは、恭太郎のキャラが好きになれないこと。容貌と声のバランスが悪いというだけでこれほど卑屈にならなくても、と思うのですが……。たとえネガティブ思考(自意識過剰)の主人公であっても、『ハリネズミの願い/トーン・テレヘン』みたいなユーモラスな物語だと愛おしくも感じるのですが、シリアスな物語だと共感が持てず、かえってイライラが募るだけのような気がします(それでも『舞台/西加奈子』の主人公よりはずっとマシですが……コイツにはチラッと殺意を覚えました)。ちなみにヒロインの恵のキャラも、出だしは結構ミステリアスなのですが、だんだんただの軽率な娘に思えてきて、興味が薄れてきます。

また、ストーリーも、恵の殺人計画の動機とか、恭太郎らがその計画に引き摺られる理由とか、その後の恭太郎の行動とかがどうもピンとこないし、不自然な感じがします。たぶんそういうところが気になって物語に入り込めないんだろうなと思います。そして、肝心のクライマックスも、(純粋なミステリーではないとはいえ)伏線なしのどんでん返しは反則のような気がします。

道尾作品のファンの方には申し訳ありませんが、作品の良し悪しというより好き嫌いという肌感覚のレベルで、合わないなあと実感した作品でした。