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🔴本「宇喜多の捨て嫁」/木下昌輝(文春文庫)感想*歴史小説の新たな扉を開く大型新人のデビュー*レビュー4.3点

宇喜多の捨て嫁 (文春文庫)

宇喜多の捨て嫁 (文春文庫)

【乱世の人間を描き切った力作】

これは力作。これだけ重厚感のある歴史小説は久し振りです。この作家、これがデビュー作とか。まだまだいろんな所にいろんな才能が潜んでいるものですね。

ちなみにこの作品、『サラバ!』を抑えて高校生直木賞に輝いたとか。近頃の高校生もなかなかやるもんですね。嬉しくなります。

【あらすじ】

全国各地の有力大名が覇権を争う戦国時代、零落した一族の再興を果たすべく、祖父の仇である大名浦上宗景に仕官した宇喜多直家は、政略結婚や政敵の暗殺など知略、謀略の限りを尽くして浦上家の筆頭家老にまで登りつめ、そして、ついには主君の座さえ脅かす存在になっていく……。

権謀術数を駆使して戦国の世を駆け抜けた宇喜多直家と、その政敵である後藤家に嫁いで“宇喜多の捨て嫁”と揶揄された直家の四女於葉の苛烈な生涯を鮮やかに活写した歴史小説。

【感想・レビュー】

直家の正妻、長女、三女、舅、その他多くの政敵など、相当数の登場人物がバタバタと死んでいきます。いくら弱肉強食の戦国時代とはいえ、無慈悲なものです。しかし、この小説では、人の命が軽いという印象はありません。それは、(この作家が)一人一人の人生をキッチリ描くことでそれぞれの死に意味を持たせているからだろうと思います。例えば、謀殺と言われる舅中山信正や政敵島村盛実の死も、この作家は、本人らの覚悟の死という解釈で完結させています(そこには戦国武将の美意識さえ窺えます)。この小説の良さは、そういった人間の生き方と死に方(つまるところ人生そのもの)をキッチリ描いている点にあろうかと思います。

その意味で、主人公の宇喜多直家のインパクトは強烈です。確かに彼は、一見、権謀術数の権化、悪の化身のようにも見えますが、別の角度から見れば、子煩悩な愛妻家であり、一族の生き残りを賭けて、シビアではあるけれども最も有用な方法を選択したリアリストであるともいえます。そもそも人間は、善性や悪性、美しさや醜さ、強さや弱さなど数々の自己矛盾を抱えた生きものです。そういう人間の多面性を直家という人間を通して過不足なく描き切ったことがこの小説の重厚感に繋がっている気がします。

……ということで、この小説、乱世の(極限状況下の)人間にスポットライトを当て、人間そのものをキッチリ描いた、読み応え十分の力作です。祖母、母、於葉と連なる女の歴史も、乱世を生きた女たちの命懸けの想いや凛とした潔さに胸を打たれるものがあります。その点では女性にもオススメの一作かと思います。