お気楽CINEMA&BOOK天国♪

お気楽CINEMA&BOOK天国♪

金はないけど暇はあるお気楽年金生活者による映画と本の紹介ブログ

🔴本「キラキラ共和国」/小川糸(幻冬舎)*2018本屋大賞ノミネート作品その5*感想&レビュー4.2点

キラキラ共和国

キラキラ共和国

【幸せになれる秘密のおまじない“キラキラ”】

前作「ツバキ文具店」を読んでいないので、多少分からないところはあるのですが(なんで“パンティー”さん?バーバラ婦人は日本人?美雪さんはどんな事件に巻き込まれたの?などなど)、まあ、分からなくてもそれほど支障はないようです(たぶん)。

舞台が鎌倉というところがいいですね。歴史があって、古い街並みがあって、時間がゆっくり流れていて……この物語のゆるりとした雰囲気にぴったりの舞台だと思います。

【あらすじ】

QP(はるか)ちゃんの小学校入学の日に合わせて入籍した鳩子さんとミツロー(蜜朗)さん。二人の仕事の都合でしばらく別居が続いたものの、ミツローさん、QPちゃん父娘が鳩子さんの家(ツバキ文具店)に越してくる形で、晴れて家族3人の同居生活がスタートすることに。

それまで家庭の温かみを知らずに育った鳩子さんは、母親になった喜びや家族で暮らす幸せを噛み締めながら、日々子育てや手紙(ハガキ)の代書の仕事に精を出すのだが……。

【感想・レビュー】

この作品は、幸せ薄い人生を歩んできた(らしい)鳩子さんが、ミツローさんと結婚し、QPちゃんのお母さんになって、少しずつ家族になっていく日々を柔らかいタッチで描いたハートフルストーリーです。

鳩子さんに手紙の代書を依頼するワケありの人たちのエピソードもいくつか織り込まれてはいますが、メインは鳩子さんのささやかな日常の出来事……QPちゃんと裏山で採った蓬で蓬団子をこさえたり、結婚の挨拶のため一家でミツローさんの実家を訪ねたり、高熱を出したQPちゃんの看病をしたり、ミツローさんと些細な夫婦喧嘩をしたりなど……が全編を通して、緩やかに淡々と綴られています。

この小説の良さは、そうした慎ましくささやかな日常がいかに貴重なものか、いかに奇跡に溢れているかを読者にさり気なく教えてくれるところにあります(押し付けがましくないところがいい感じです)。ごく平凡な日々の営みの中に様々な驚きや喜びを見い出し、小さな幸せに満たされる鳩子さんの素直な感性は本当に素敵だなあと思います。たぶん“心の豊かな人”って、彼女のような人のことをいうのでしょうね(ガングロ女子だったという昔の鳩子さんとかなりギャップがありますが……彼女の過去に一体何があったのでしょう?)。

代書のエピソードも鳩子さんの日常に色を添える形で、物語のいいアクセントになっています。お気に入りは、目の見えないタカヒコ君がお母さんに贈る感謝の手紙と、生後8日で天国に旅立った真生君を悼む喪中ハガキ。依頼人の想いを汲み取った、温かくも切ない文面についホロリとさせられます。

鳩子さんの人柄がちょっと出来すぎな気もしますが、やっぱりこういう“救い”や“癒やし”のある小説は気分がいいですね。一家の鎌倉でのスローライフにも憧れます。この本の冒頭にある「鎌倉案内図」を片手に一度足を運べたらなあと思います。