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金はないけど暇はあるお気楽年金生活者による映画と本の紹介ブログ

🔵映画「やさしい本泥棒」/(2013アメリカ,ドイツ)感想*人間の醜さと美しさが深く心に刺さる映画*レビュー4.3点

やさしい本泥棒 [Blu-ray]

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【これが劇場未公開?】

こんな良質の映画が劇場未公開だったなんて⁉ちょっとびっくりです。公開されなかった経緯は承知していませんが、見る目がないというか、もったいないというか、それが少々残念です(それでもDVD化はされたので、良しとすべきなのでしょうが……)。この映画は、私たちが知っておくべき歴史(人類の負の歴史とそれを乗り越えた人たちの苦難の歴史)が刻み込まれた秀作だと思います。

【あらすじ】

舞台は第2次世界大戦前夜のドイツ。弟を亡くし、赤狩りで逃亡中の母親とも別れることになった少女リーゼルは、ミュンヘン近郊の田舎町に住むハンス、ローザ夫妻に里子として引き取られる。字が読めなかった彼女は、養父のハンスから読み書きを習い、本を通じて様々な世界に触れることで、少しずつ生きる希望を見出してゆく。しかし、戦火が拡大するにつれ、ナチスの言論統制は厳しさを増し、人々は本を読む自由さえも制限されるようになる。そんなある日、リーゼルは、反ユダヤの集会が開かれた広場で大量に燃やされた本を目撃し、その中から焼け残った1冊をこっそり盗み持ち帰るのだが……。

【感想・レビュー】

過酷な運命に翻弄される少女が本との出会いによって真っ直ぐに成長していく様を、周囲の人たちとの温かい交流を交えて描いた感動のヒューマンドラマ。

これは好みの映画です。地味だけれども良質、もう少し注目されてもいい作品かと思います。物語の舞台がナチス支配下のドイツということで、全体のトーンはやや暗めですが、非人間的な状況下にあってもなお人間らしさを失わない人たちの優しさに救われて、視聴後は静かで深い余韻が胸に響きます。

特に印象深いのが、養親のハンス、ローザ夫妻とリーゼルの親友?のルディ。リーゼルに向ける養父ハンスの慈愛に満ちた眼差しと養母ローザの不器用な愛情は、思い出しただけでもう泣けてきそうになります。リーゼルとハンス、ローザ夫妻が本当の親子になってゆく過程が繊細かつ丁寧に描かれているところがすばらしいと思います(ローザがリーゼルの学校を訪ね、匿っているユダヤ人青年の無事を知らせるシーンは特に秀逸です)。

また、リーゼルと“レモン色の髪”の少年ルディとのエピソードも微笑ましくて素敵です。リーゼルの大切な本を取り戻すために真冬の川へ飛び込むルディ。カッコいいですね。子どもながらあっぱれな男だと思います。

そして、特筆すべきは、少女から大人の女性へと変わってゆくリーゼルの魅力。その面差しの変化は、まるで一人の少女の成長を数年間追いかけたドキュメンタリーを見ているかのようです。あどけなさの残る面差しに時折浮かぶハッとするような大人の表情にも魅了されます。ソフィー・ネリッセの演技力、恐るべしですね。

この映画の語り手を悪魔に設定したところやリーゼルと本の関わりが薄味なところに多少の違和感や物足りなさはありますが、総じて、主張のはっきりした、訴求力のある映画だと思います。こういう映画を観るたび、平和な時代に生まれた幸運をありがたく思うと同時に、日々を大切に生きようという謙虚な気持ちにさせられます。