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🔴本「百貨の魔法」/村山早紀(ポプラ社)*2018本屋大賞ノミネート作品その2*感想&レビュー4.3点

百貨の魔法

百貨の魔法

【人の善意が紡ぎ出す魔法の物語】

地域の歴史ある百貨店……たぶんどの都市にもそんな百貨店があるんだろうと思います。この小説を読んで、親に連れられて初めて百貨店に行った日のことを思い出しました(半世紀以上も前のことなのに、レストランで何を食べたか、屋上で何に乗ったかまで憶えています)。貧しかった時代の子どもたちにとって、当時の百貨店は確かにめくるめく魔法の空間であった気がします。

それだけにこの小説に登場する、百貨店に強い思い入れのある大人たちの気持ちは本当によく分かります。自分にとっても、特別の感慨がよぎる小説です。

【あらすじ】

風早市の古い商店街の中心部に建つ創業50年の星野百貨店。戦後復興のシンボルとして長きに渡って地域に貢献し、街の人びとに愛されてきた百貨店だが、長引く不況の影響で、閉店の噂も囁かれている。

そんな百貨店を守ろうと、笑顔でそれぞれの持ち場に立ち続ける従業員たちと、館内に住むと噂される「魔法使いの白い猫」が織りなす奇跡を描いた物語。

【感想・レビュー】

第一幕から第四幕、幕間、終幕の6篇からなる連作集。各篇の登場人物は、エレベーターガール、テナントの靴店のオーナー、宝飾店のフロアマネージャー、資料室の事務員など様々ですが、全篇を通して登場するのが、新人コンシェルジュと、一つだけ願い事を叶えてくれる魔法使いの白い猫。つまりこの一人と一匹がこの物語のキーマンということになります(表紙に描かれた白い猫が物語のイメージとぴったり!素敵なイラストです)。

この物語、いかにも児童文学作家の作品らしいなあと思います。児童文学の延長線上にある大人向けの物語といった感じです。平易で素直な文章やファンタジックなストーリーに加えて、子どもたちに向ける大人の温かい眼差しや子どものいたいけな心情の描写にその(児童文学作家としての)特長がよく表れていると思います。

正直なところ、第一幕、第二幕あたりまではメルヘンチックな趣向が強すぎて、ちょっと気恥ずかしくもあったのですが、第三幕以降は、村山ワールド全開という感じで、どっぷりと物語の世界に浸ってしまいました。

中でも、第三幕の、星野百貨店の屋上で母親に置き去りにされた記憶を引き摺る宝飾店のフロアマネージャーが数十年の時を経て母親と再会する話と、終幕の、幼い頃百貨店内で『お利口くん』、『福の神ちゃん』と呼ばれて愛された鷹城夫妻と古参の従業員との心温まるエピソードには、完璧にやられてしまいました(2人の男の子の健気さがたまりません)。

村山さんの作品は、本当に優しいですね。“文は人なり”……とことん人の善意を信じ抜くその作風に村山さんの温かい人柄が偲ばれます。