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🔵映画「帰ってきたヒトラー」感想*モラルの限界スレスレをゆくヤバい映画*(2015ドイツ)レビュー4.2点

帰ってきたヒトラー [Blu-ray]

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【コメディの皮を被ったシリアスな社会派映画】

ヒトラーをコメディにするなんて、なかなかできない荒業です(チャップリンの『独裁者/1940アメリカ』は、ホロコーストが本格化する前の映画です)。同名の原作小説がヒットしたとはいえ、内容が内容だけに、映画化に当たってはかなり神経を使ったのでないかと思われます(当然、ヒトラーを賛美する映画ではないのですが)

肝心の着地点がどうなるのかも気を揉みますが、なるほどそう来たかって感じで、最後まで気の抜けない怖い映画です。

【あらすじ】

2015年の現代ドイツに突然甦ったヒトラー。誰しも彼を“恐ろしく演技の上手いモノマネ芸人”と勘違いして、テレビやネットでもてはやす。やがて彼の過激な主張は、社会に不満を持つ大衆の心を捉え、その思想や政治的活動が俄然注目を浴びるようになる。しかし(彼を発掘したテレビマンと認知症のユダヤ人老婆の2人を除いて)皆、彼が現代にタイムスリップした本物のヒトラーであることに気付いていなかった……。

【感想・レビュー】

現代に甦ったヒトラーが、極右政党をこき下ろしたり、なぜか緑の党(環境主義、多文化主義、反戦を標榜)を支持したり、メルケルを“陰気なオーラのデブ女”と評したりと、政治的風刺の効いた大胆不敵なコメディです。70年前の思想を持ったままのヒトラーが出くわす現代社会とのギャップは、“確かにそうかも”と頷けるところがあって結構笑えます(たとえばテレビ番組のあまりのくだらなさに怒り、パソコンの圧倒的な情報量に嬉々とするあたり。とりわけパソコンの操作方法をレクチャーする秘書とヒトラーの噛み合わない会話がシュールすぎて笑えます)。

しかし、移民の流入、失業、貧困などの深刻な社会問題への大衆の(潜在的かつ強烈な)不満を目にしたヒトラーが、“国民は不満を抱いている。1930年と同じ状況だ”とほくそ笑むあたりになると、なんだか笑うに笑えない気分になります。

“歴史は繰り返す”……ヒトラーがその天才的な弁舌を駆使して、じわじわと大衆の心を掴み、正気から狂気へと駆り立ててゆくプロセスを見せられると、改めて衆愚政治の怖さや民主主義の危うさを痛感します(ヒトラーが乗り移ったかのようなオリヴァー・マスッチの鬼気迫る演説シーンが圧巻)。“(21世紀になっても)民主主義は未だに根付いていない”と呆れるヒトラーの言葉も印象的です。

結局、一番怖いのはヒトラーではなく、デマゴーグに簡単に踊らされるフツーの国民、ということになるのでしょうが、それにしても、人間って一人だとマトモに見えるのに、集団になるとなんでこんなに愚かになるのでしょうか……。