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🔴本「崩れる脳を抱きしめて」/知念実希人(実業之日本社)〜2018本屋大賞ノミネート作品その1〜感想&レビュー4.3点

崩れる脳を抱きしめて

崩れる脳を抱きしめて

【純度の高い恋愛ミステリー】

2018年本屋大賞ノミネートの10作品が店頭に並んでいたので、数冊仕入れてまいりました。どれも結構分厚いので、1日1冊というわけにはいかないだろうと思いますが、頑張って読破して、できるだけ記憶が鮮明なうちに感想等を紹介できたらと思っています。

……ということで第一弾は、知念実希人の『崩れる脳を抱きしめて』。センセーショナルなタイトルどおりの驚愕の恋愛ミステリーで、ミステリーの面白さ以上に恋心の美しさが深く印象に残る作品だと思います。

【あらすじ】

広島中央総合病院の研修医、碓氷蒼馬は、地域医療の実習先として神奈川の緩和医療を扱う療養型病院に派遣され、そこで重篤な脳腫瘍を患う弓狩環(自称“ユカリ”)と出会う。

幼い頃父親に捨てられたトラウマを抱える碓氷と外出恐怖症のため一歩も屋外へ出られないユカリ。二人は少しずつ距離を縮め、やがて碓氷はユカリに対し、患者以上の感情を抱くようになるが、ユカリは碓氷の想いを必死に拒む素振りを見せる。

その後、実習を終えて広島へ戻った碓氷の元に、ユカリの死の知らせが届く。外出恐怖症のユカリがなぜ横浜で死んだのか、ユカリの遺書はどこへ消えたのか、ユカリの存在自体が幻だったのか……。

そして、碓氷が辿り着いた驚愕の真実とは……。

【感想・レビュー】

ミステリーのどんでん返しの醍醐味と恋愛小説のキュンとくる切なさを同時に堪能できる恋愛ミステリーの力作。

やっぱり知念さんは大したエンターテイナーですね。キャラクターが脇役に至るまで魅力的で(特に広島弁まる出しの冴子!)、ストーリーも起伏に富んでいて面白く、しかも読後感がこのうえなく清冽です。“ひたすら活字を追い、急かされるようにページを捲る”、そんな読書本来の楽しさが存分に味わえる作品かと思います(本にあまり興味がない人でもたぶんハマるんじゃないでしょうか)。

この小説が一過性の面白さに止まらず、忘れがたい余韻を残すのは、作品のベースに“生と死”という人間の根源的なテーマに対する作者の問いかけ(たとえば、人は死とどう向き合うべきかとか、どう生きるべきかとか)が潜んでいるからだろうと思います。そして、作者のその想いは、碓氷とユカリのギリギリの恋の顛末に収斂されている気がします。生に限りがあるからこそ人も人生も美しい……多くの死を看取ってきた医師らしい視点だと思います。

やや残念なのは、途中の強引な辻褄合わせや少女漫画のようなベタな演出でしょうか(ユカリの驚異の推理力、院長のバレバレの虚言、碓氷のマッチョぶりなど)。そこは幅広い読者層を意識したエンタメ小説の宿命かなあという気もします。

ただ、この作品にはそんな多少のアラを補って余りある確かな手応えの感動があります。エンタメ小説の枠を超えた極めて高密度、高純度の恋愛ミステリーであり、買って読んでも損はない作品かと思います。