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🔴本「孤狼の血」感想*女性作家が描く任侠の世界に驚き*柚木裕子(角川文庫)レビュー4.1点

孤狼の血 (角川文庫)

孤狼の血 (角川文庫)

【女性作家が描く任侠の世界】

映画『仁義なき戦い』を彷彿とさせる世界観。昭和の男たちが熱いです。しかし、こんな血湧き肉踊る作品をモノにしたのが女性作家だなんて……なによりそこに驚きます。

【あらすじ・感想・レビュー】

昭和63年、広島。所轄署の捜査二課暴力団係に配属された新米刑事日岡は、ヤクザとの癒着や違法捜査の噂が絶えないベテラン刑事大山とコンビを組んで、金融会社社員の失踪事件のヤマを追うが、やがて、この失踪事件を契機に暴力団同士の抗争が勃発。抗争を食い止めるために大山がとった大胆な行動とは……。

濃密なリアリティと圧倒的なエネルギーを持った(ハードボイルド)警察小説。

警察と裏社会との関係やそれぞれの内部事情、血で血を洗う抗争のプロセスなどのディテール描写が精巧で、そのため、終始ひりひりするような緊張感が流れています。そして、ひときわ印象的なのは、ヤクザの幹部をも凌ぐ、大山刑事の圧倒的な存在感。ヤクザのシノギをピンハネしたり、平然と違法捜査をしたりと、どう見てもろくでもない警官なのですが、その非常識な行動の裏に、私利になびかない潔さや弱者への慈しみが見え隠れして、なんとも形容しがたい魅力を備えた男です。彼は、ヤクザを必要悪と捉えてその存在を許容し、ヤクザ社会と市民社会との共存を図ろうとします。また、警察組織の建前を嫌い、常に実利を優先して行動します(目的のためには手段を選びません)。その意味で彼は徹底したリアリストです。数々の修羅場を経験し、現実の闇を知る者だけが持つ得体の知れないオーラを前にすると、自分の“正義感”がはたして真っ当なのかと問い質されているような気がして、改めて“正義とはなにか”について考えさせられます(特に最終章の晶子の告白部分は、各々の“正義感”が問われる場面だと思います)。

この作品、全体的にバランスのとれた完成度の高い小説だと思います。ハードボイルドものにありがちな“ざらついた空気感”(わざとらしくて嫌いです)のようなものがなく、エピローグも余韻があって好印象です(タイトルの意味もそこでようやく分かります)。ただ、あえて指摘するとしたら、途中からなんとなく結末が見えてしまうところや警察の組織体質への突っ込みが弱いところが減点要素かなと思います。