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🔴本「飛ぶ教室」感想*不遇の子どもたちに惜しみなく愛を注ぐ児童文学作家ケストナーならではの名作*E ・ケストナー(新潮文庫)レビュー4.5点

飛ぶ教室 (新潮文庫)

飛ぶ教室 (新潮文庫)

【騎士道精神を持った腕白小僧たち】

ケストナー原作の映画『点子ちゃんとアントン』と『ファミリー・ゲーム(ふたりのロッテ)』がとても良かったので、一度小説の方も読んでみたいと思っていました。

……で、結果は期待した以上。この作品は、不遇の子どもたちに惜しみなく愛を注ぐ児童文学作家ケストナーならではの名作だと思います。

【あらすじ・感想・レビュー】

ドイツの寄宿学校(ギムナジウム)で生活する5年生の仲良し5人組の友情と彼らの成長を描いた、ほほえましくも温かい物語。

5人の生徒たち、それぞれ個性や家庭環境は違っても、みんな素朴な正義感を持った、伸びやかで愛すべき子どもたちです。実業学校生と抗争場面での彼らの(騎士道精神を彷彿とさせる)紳士的かつ正々堂々たる振る舞いについ顔がほころんだり、自分の名誉を賭けて鉄の登り棒から飛び降りたユーリの蛮勇に妙に感心したり、貧しさのためクリスマスに帰省できないマルティンのいじらしさに涙したり……いつの間にか自分がこの腕白小僧たちの庇護者であるかのような錯覚に陥って、ついつい彼らの応援に力が入ってしまいます。

また、登場人物がみんな善人なのも好印象です。中でも、腕白小僧たちをいつも温かい眼差しで見守っている「道理さん(ベク先生)」と「禁煙さん」はとびきり素敵です。彼らと接するときの2人の態度を見ていると、子どもの健やかな成長のためにはその気持ちを理解できる大人の存在が必要なんだなと痛感します。ただ、そうはいっても、実際それができるかというと、なかなか難しいところです。大抵の大人は、自分が子どもだった頃(=純で真っ直ぐだった頃)のことなんて、ほとんど忘れてしまっていますから(前書きでケストナーは『幼い頃のことを忘れるな!』と言っていますが……)。かく言う自分も、それほどいい大人じゃないなあ、なんて反省しきりです。……しかし、子どもの心を忘れない大人って、たぶんケストナーのような詩人特有の才能なのかもしれませんね。

この作品、前書きもすばらしいです。子どもたち(かつて子どもだった人たちを含む)への力強いメッセージとともに、ファシズムへの批判精神も滲み出ていて、ケストナーの覚悟のようなものが伝わってきます。きっとこの作家、情熱と気骨の人だったんだろうなと思います。