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🔴本「ロートレック荘事件」感想*難敵、叙述トリック*筒井康隆(新潮文庫)レビュー3.9点

ロートレック荘事件 (新潮文庫)

ロートレック荘事件 (新潮文庫)

【難敵、叙述トリック】

これは評価の分かれるミステリーだと思います。なんかズルい、と思う人もいれば、これは鮮やか、と唸る人もいるでしょう。ただ、どちらにしても、“一気に読ませる”という点では、さすが巨匠という感じはします。

【あらすじ・感想・レビュー】

ロートレックの作品で彩られた、古い瀟洒な洋館で起こる美しい娘たちの連続殺害事件を描いたミステリー。

読者の先入観や思い込みを利用してミスリードを誘い、一気のどんでん返しを狙う叙述トリックというヤツに、今回もまた、まんまと嵌められてしまいました。

こういった本格推理モノのミステリーは、速読派の自分にとっては、嫌いではないけれど、ちょっと苦手なジャンルかなと思っています(単に推理力がないだけ?)。で、今回も、語り手の主体が分かりにくくて、序盤は違和感だらけ……かなり手こずりましたが、中盤以降は展開がぐいぐい加速して、後は一気に読了しました(ミステリーって、最初の違和感が大事なんですね)。結末も、ある意味ちょっとしたどんでん返しで、やりきれなさの中にも救いを感じる、余韻のある終わり方だったと思います。しかし、肝心の謎解きの方は、情けないことに、二度読みしてようやく納得。読み返してみると、なるほど、細部までよく練り上げられてるなあ、と感心しきりです。こういう設計が精巧なミステリーは、読後、気持ちのいい“やられた感”がありますね。

まあ、欲を言えば、古い洋館、上流階級の人々、3人の美女、と来たからには、もうちょっとおどろおどろしい雰囲気があってもよかったかなとは思います。また、何枚ものロートレックの絵が挿絵として収録されているのは嬉しいのですが、それらの絵がほとんどストーリーの伏線になっていない点も、少々勿体ない気がします。