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🔵映画「ぜんぶ、フィデルのせい」感想*てっきり微笑ましいほっこり系の映画かと思ったら・・・*(2006フランス)レビュー3.8点

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【キョーサン主義ってなに?】

幼い女の子が主人公だから、てっきり微笑ましいほっこり系の映画かと思ったら、意外や意外、なかなか手強い映画です。

子どもの目から見た“キョーサン主義”、そのよく分からないものを通して見た大人の価値観。けっこう深いです。

ちなみにタイトルの「フィデル」は、キューバの元国家議長、フィデル・カストロのこと。なかなかヒネったタイトルですね。

【あらすじ・感想・レビュー】

おとうさんは弁護士、おかあさんは雑誌記者、可愛い弟とキューバ人のお手伝いさんに囲まれて、名門カトリック校に通うアンナ。そんなアンナの恵まれた生活が、両親がキョーサン主義に染まってしまって、一変。引っ越したボロアパートには、四六時中、ヘンなおにいちゃんやおばちゃんたちがウロウロしてるし、電気代もケチる毎日です。「なんで?どうして?ぜんぶ、フィデルのせい?」……アンナはふくれっ面になってしまいます。

……9歳児の目から見た大人の世界。キョーサン主義?カク戦争?ダンケツ?分からないことだらけです。アンナは、先生の質問の答が分かっていたのに他の生徒たちに同調して、間違った答の方に手を挙げます。でも、当然、答はバツ。せっかくダンケツしたのに……ダンケツって正しいこと?とアンナは思います。こういうシーンがいくつも出てきて、いろいろ考えさせられます。そんな悩めるアンナに、両親は曖昧な態度をとったり、ごまかしたりしないで、正面から向き合おうとします。子どもでも一個の人格として認めているんですね。その辺りがいかにもフランスっぽいなあと思います。

この作品、フランスの5月革命以降の共産主義ブームやウーマンリブ運動を題材にとってはいますが、政治的な映画というわけではありません。イデオロギー的にはあくまで中立(そこにこの監督の節度が窺えます)。おそらく監督が描きたかったのは、“多様な価値観”なのだろうと思います。9歳の女の子が様々な価値観に出会い、戸惑い、衝突し……やがて自分と他人の違いを認識し、そして他人を理解できるようになっていきます。そのことを象徴的に示しているラストシーンがとても印象的です。

……グローバリズムとポピュリズム、多文化主義と一国(伝統)主義、といった対立構造が世界規模で顕になりつつある昨今、この映画は大切なメッセージを発しているように思います。われわれがアンナから学ぶべきことは、(互いの価値観を感情的に非難し合うのではなく)互いの価値観の違いを理解して、それをできる限り尊重する、あるいは尊重しようと努める姿勢なのだろうと思います。……もっとも、つい先入観や偏見で物事を見てしまう大人にとっては、それも容易なことではないのかもしれません。この作品は、(子どもの柔軟性と対比させる格好で)そういう大人の厄介さも示唆しているように思えます。