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🔴本「よろこびの歌」感想*本屋大賞作家の心洗われる一作*宮下奈都(実業之日本社)レビュー4.5点

よろこびの歌 (実業之日本社文庫)

よろこびの歌 (実業之日本社文庫)

【本屋大賞作家の心洗われる一作

不覚!……女子高生が主役の青春小説にこれほどうるうる来るとは思ってもみませんでした。何が泣けるって、みんないい子だから。

この作品は、「合唱」をテーマにした全7話の連作集で、6人の悩める女子高生が登場します。どの子もみんな、曲がっても折れても、必死に自分と向き合っています。爺さまとしては、そのひたむきさにやられてしまいます。

この作者の『羊と鋼の森』も好きですが、こちらの方が、より好みに近く、小説としての完成度も高いような気がします。

【あらすじ・感想・レビュー】

登美丘高校ダンス部と京都橘高校吹奏部の大ファン、しかも女子高の合唱部モノの小説が好きって言ったら、若い子たちから「この爺さま、ヤバくね?」なんて言われてしまいそうですが、わたくし、決してJKフェチなどではありません。ついでに、怪しい爺さまでもありません(怪しい奴は大抵そう言いますが)。彼女たちの圧巻のパフォーマンスもさることながら、何より、あのレベルに到達するまでの彼女たちのひたむきな努力と情熱に心を打たれ、無性に応援したくなるのです。

……ということで、まずはあらすじから。

音大の附属高校から音大へ、更にはその大学院への進学を当たり前のように考えていた声楽志望の御木元玲が、高校受験に失敗し、新設女子高の普通科に進むところから物語は始まります。将来の夢が断たれた挫折感や一流のヴァイオリニストである母親への屈折した想いから、玲は同級生との交わりを避け、抜け殻のような学校生活を送ります。そんな彼女に転機が訪れたのは、2年生の秋の校内合唱コンクールでのこと。クラスの話合いで彼女は指揮者を任されます。それを機に彼女の心に変化が生まれます……。

この作品は、歌を通じて、様々な悩みを抱えた少女たちが心を通わせ、少しずつ緩やかに成長していく姿を描いた、美しい青春音楽小説です。 

作者の丸みを帯びた柔らかな文体が、子供でもなく大人でもない多感な年頃の女の子の揺れ動く心象風景を見事に捉えていて、「あゝこの作家、また腕を上げたな」と素直に感服します。少女たちが自縄自縛の状況から少しずつ緩やかに解放されていく様がとても感動的で、読後は、心が洗われたような清々しい気分になります。彼女たちの心の柔らかさやしなやかさが眩しくて、“若さ”を少しだけ羨ましくも感じます。この作品、文体といい、構成といい、内容といい、すべてに完成度が高く、作者の最高傑作と言っていいのではないかと思います。

彼女たちが歌うのは、『麗しのマドンナ』。(詳しくはないのですが)これは難曲だと思います。玲ちゃんが渋るのも少しは分かる気がします。メロディが単純なだけに、音程や抑揚をミスってしまうと、確かに彼女が想い描く『雲雀が舞う空の下で、裸足で戯れながら歌を歌う田舎娘たち』のイメージは喚起できないでしょうね。でも、聴いてみたいですね。……道すがら、校舎のどこかから彼女たちの歌う『麗しのマドンナ』が漏れ聞こえてきたら……そんな想像をしただけでとても幸せな気分になります。

この作品に登場する6人の女の子、みんなそれぞれ個性的で可愛らしいのですが、イチオシは、うどん屋の千夏ちゃんです。クリスマスにサンタさんからピアノを貰えなかったという幼少期の原体験から、自分の置かれた境遇に不満や諦めを感じていますが、おとうさんのカレーうどんに賭ける想いに触れて、真っ直ぐに自分の道を歩む決心をします。……なんて健気でいじらしい子なんでしょう!爺さまはもう完全にメロメロです。