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🔵映画「幸せなひとりぼっち」感想*偏屈オッサンの幸せな老後*(2015スウェーデン)レビュー4.1点

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【偏屈オッサンの幸せな老後】 

この作品は、妻に先立たれ、仕事をクビになった孤独で偏屈な初老の男、オーヴェが、隣人たちとの交流を通して次第に心を開いていく様を描いたハートウォーミングドラマです。

『シンプル・シモン』やこの作品を観ていると、スウェーデンって寛容な国だなあと思います(あくまでも幾つかのスウェーデン映画を観た限りでのイメージですが)。シモンにしろオーヴェにしろ、かなりの変わり者で、付き合うには相当煩わしい存在なのですが、周囲から爪弾きにされることはありません。

異質なもの(自分と違ったもの)を尊重し、受容するその鷹揚さに、穏やかでバランスのとれた、寛容な国民性が偲ばれて、何だかほっこりした気分になります。

男女平等が徹底し、福祉が行き届いているのも、つまるところ、そういう寛容さの表れのような気がします。

【あらすじ・感想・レビュー】

この作品の舞台は、突き抜けるような青空とこじんまりとした団地のコントラストが印象的なスウェーデンの片田舎。その団地に住むオーヴェが主人公です(59歳という設定なのにかなり老けてます)。

オーヴェは、ルールに厳しく、怒りっぽくて、ところ構わず怒鳴り散らす、かなりはた迷惑な男です。団地内で孤立し、長年勤めた鉄道局もクビになった彼は、いよいよ現世に絶望し、自殺を決意します。しかし、いざ決行という度に、首吊り用のロープが切れたり、隣のパルヴァネ一家の邪魔が入ったりで、毎度未遂に終わってしまいます。その間の悪さが喜劇のようで笑えます。

しかし、こんな偏屈でうるさいオッサンが隣人だったら、フツーはたまったもんじゃないと思うのですが、隣家のイラン系移民、パルヴァネ婦人は、本当にタフです。どれだけオーヴェから罵られようが邪険にされようが、全く怯むことなく、堂々と渡り合います。決死の覚悟で母国を脱出した悲惨な過去が彼女を強くしているのでしょう。この大らかで逞しいパルヴァネのキャラクターが、この作品の雰囲気を随分と明るく軽やかなものにしているように思えます。喧嘩が絶えない二人が徐々に心を通わせていくプロセスは、本当にほのぼのしていて、心が和みます。

……喧嘩と言えば、オーヴェには唯一人親友がいました。過去形なのは、かつて大喧嘩して以来、仲直りができていないからです。その喧嘩の発端が何と、サーブVSボルボ。熱狂的なサーブ支持者であるオーヴェは、親友がボルボをチョイスしたことが許せません(同じスウェーデン車なのに……)。更にその後、彼がドイツ車のBMWに鞍替えしたことで、とうとうオーヴェの怒りが爆発!……(これは分かる気がします)、それで絶交となってしまったのです。何というサーブ愛!そして祖国愛!(……ちなみに、私もようやく祖国愛に目覚めて、この頃韓国海苔と天津甘栗は食べなくなりましたw)彼らのこの大人気ない自動車戦争の顛末もなかなかの見ものです。

そして、この作品の白眉はというと、何と言っても、オーヴェと亡き妻、ソーニャとの初デートのシーンです。知り合った当時、定職もなく貧乏だったオーヴェは、精一杯背伸びして彼女を街の洒落たレストランに招待します。しかし、二人分の代金が払えなくて、彼は自分は先に済ませたと言って、彼女の分だけ料理をオーダーします。そのことに気付いたソーニャは、彼に抱きついてキスをします……若い恋人たちの互いを気遣う優しさが滲み出て、溜息が出るような素敵なシーンです。

ただ、愛する人を喪くした今となっては、想い出が美しければ美しいだけ、オーヴェの喪失感も切実なはずです。こんな忘れ難い、美しい想い出を抱えたまま生きていくのもさぞツラいことだろうなと思います。生より死を望む彼の気持ちも分かる気がします。しかし、幸いにも、オーヴェは、パルヴァネという善き隣人のお陰で、幸せな老後を過ごします。やはりこういう“救い”が映画の醍醐味であり、本分なんだろうと思います。

仮にこの作品のテーマが、「人は一人で生きられるか?」という問いかけだとしたら、答は作品中に示されていると思います。「人は一人で生きられるが、一人では生きる意味はない」と……。