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🔵映画「ガッジョ・ディーロ」感想*興味が尽きぬロマの伝統と文化*(1997フランス・ルーマニア)レビュー4.0点

ガッジョ・ディーロ [DVD]

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【フランス人青年の異文化交流】

現在、ヨーロッパに住むロマ(ジプシーの中の一集団)は1000万人以上、その最も多くがルーマニア在住と言われています。この作品は、ルーマニアの寒村に定住するロマの人々と、その村に流れ着いたフランス人青年の異文化交流を描いたドラマです。

ロマの村人と現地のルーマニア人との根深い対立に、一筋縄ではいかないヨーロッパの現実が垣間見えて、複雑な思いはありますが、それ以上に、馴染みのないロマの伝統や文化が興味深く、音楽と共に逞しく生きる彼らの姿が強く心に残ります。

【あらすじ】

父の遺品の中からロマの幻の歌姫ノラ・ルカのカセットテープを見つけ出したフランス人青年、ステファンは、彼女を探す旅に出て、ルーマニアのロマの村に辿り着きます。彼は猜疑心の強い村人たちから、“ガッジョ・ディーロ”(愚かなよそ者)と呼ばれて疎まれますが、何故か長老のイジドールだけは、彼を優しく迎え入れ、親身に世話を焼き始めます。

やがて、ステファンの人柄に警戒心を解いた村人たちは、彼を仲間として認め、ノラ・ルカの捜索にも協力するようになります。一方、ステファンは村に馴染むにつれ、逞しく自由奔放な村の娘、サビーナに惹かれるようになります。

しかし、平穏だった村の暮らしも、服役していたイジドールの息子が出所してから、様相が一変してしまいます……。

【感想・レビュー】 

まず印象に残ったのは、ルーマニアの寒村や森の針葉樹林の美しさ。何もない殺風景な冬の佇まいが無性に異国情緒を誘います。そして、ロマの哀愁味を帯びた歌と情熱的なジプシー舞踊(素人目には、フラメンコとベリーダンスが混合した踊りのように見えます)。ジプシー舞踊を踊るサビーナの艶やかな魅力にしばし陶然とします。これぞ映画の愉悦ですね。

サビーナを演じるローナ・ハートナーは、ルーマニア人のようですが、好奇心満々といった感じの目がいいですね。歌も上手です(歌手らしい)。ロマの楽団も実際にこんな感じなのでしょうね。ジプシーのイメージ通りではありますが、その音楽のクオリティは、伝統の重みとでも言うべきか、想像以上に高いと感じました(……早速、YouTubeで検索したところ、かなりの数、アップされています。ジプシー音楽がこんなにポピュラーだったなんて全く知りませんでした。新たな発見ができて嬉しいです。)。それにしても、ロマの女性はキレイな人が多いです。西洋人の端正な顔立ちとは違って、どこかオリエンタルでエキゾチックで。ロマの起源を北インド・パキスタンとする説が有力と聞きましたが、私もこの説に一票入れます。

この作品は、主役級を除いて全員ロマの人たちを起用し、彼らのナマの日常をドキュメンタリータッチで描いたもので、「リアリティ」が特徴的です。村人が電線から勝手に電気を家に引き込んだり、父親が村人に娘の処女証明書を見せて娘のガードを頼んだり、娘の結婚式で父親が婿を斧を振り回して罵倒し、その上で婿を抱擁して家へ招き入れたり……など、ロマの人たちの逞しい暮らしぶりや奇妙な習俗がリアルに映し出されて、軽いカルチャーショックを覚えます。終盤のロマの村人とルーマニア人の争いは悲劇的ではありますが、これもまたロマの現実ということなのでしょう(実際に、1991年、ブカレスト近郊のロマの村で、100軒もの家が焼き討ちに遭う事件があったと聞いています)。ステファンとサビーナの未来を予感させるラストが、救いであり、希望です。

……それにしても、人と人、民族と民族、国と国とが憎み合い、争い合う原因は、一体何なのでしょうか。貧困?格差?宗教?それとも、(欲望、恐怖心、差別意識、闘争本能といった)人間の本能?……自分の手に余る疑問ではありますが、たまにはそんなことを真剣に考えてみるのも、何らかの意味はあるのかなと思います。