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🔴本「大相撲殺人事件」感想*常識の斜め上を行く奇天烈ミステリー*小森健太朗(文春文庫)レビュー3.8点

大相撲殺人事件 (文春文庫)

大相撲殺人事件 (文春文庫)

【常識の斜め上を行く奇天烈ミステリー】

私、奇書と呼ばれる部類の本は結構好みです。この本も、帯の『伝説の奇書が大復活』という謳い文句に惹かれて購入しました。

『奇書』のジャンルでは、若い頃読んだ『死霊/埴谷雄高』『ドグラ・マグラ/夢野久作』『虚無への供物/中井英夫』の3作が日本文学の最高峰だと思っています(これらを超える奇書には未だ巡り合えていません)が、「この本、タイトルも奇抜だし、これはひょっとすると?」なんて微かな期待を抱いて読んでみたところ……もう笑うしかありません。先の3作とは180度、思想が違います。良くも悪くも、ぶっ飛び感ハンパなし!って感じです。

評価が難しい作品ではありますが、この異様なまでのナンセンスへのこだわりに、腹を括った作者の潔さのようなものが感じられて、ある意味満足の一作です。

【あらすじ・感想・レビュー】

この作品、登場人物は皆テキトー、シュールとナンセンスに徹底的にこだわった、奇妙奇天烈な本格ミステリーです。読者に媚びず、一人我が道を往くという孤高?の作風は、決して嫌いではありません。

ところで、この作品、何がスゴいかって、もうやりたい放題なんです。なんせ幕内力士の40%が殺されちゃうんですから。それだけで十分びっくりなのに、これだけの死者が出ても粛々と本場所が執り行われる光景がまたシュール。これには絶句です。これに比べたら“某横綱が某関取をリモコン?で殴った”なんて、チンケな事件ですねぇ。スケール感が違います。この程度のことで右往左往してる相撲協会は、この本を読んでちっとは見習ってほしいと思いますw(しかし、メディアもいい加減にしてほしいもんです。半島情勢や世界情勢がどんどんヤバくなってるこのご時世に公共の電波を使って不倫だの暴行だの、どーでもいい報道ばっかりして。これじゃ、いくら老い先短い私でも日本の将来が心配になってしまいます⤵)。

しかし、この作者、一体何を考えてるんでしょうか?ひょっとして、何も考えていないんでしょうか?……と思ったら、考えてるようです、この人。ちゃんと本格ミステリーになっています。特に第6話の『黒相撲館の殺人』。巧妙なトリックと意外な結末で、基本に忠実な本格派と見ました。計算ずくの確信犯って感じです。まあ、平たく言えば、「真面目にふざけている小説」なんだと思います。

お気に入りは、第3話の『対戦力士連続殺害事件』。かつてこんなバカバカしいミステリーがあったでしょうか。本場所中、ある人気力士の対戦相手が毎日立て続けに殺害されます。何人も殺されるんで読んでる方もすっかり倫理観が麻痺して、「もっと行け!もっと行け!」と、つい悪ノリしてしまいます。で、14日目までの対戦相手は、全員お陀仏(その死因がまた、色んなバリエーションがあって、作者の苦労が偲ばれます)。一体、千秋楽はどうなるの?という話で、その呆れたオチには思わず吹き出してしまいます。

これはこれでアリですね。この作家の次回作、必ず入手してまた読んでみたいと思っています。